【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
妬けるなんて、そんな生ぬるいもんじゃない。
黒く染まった感情がそれ以上に黒く染め上げられそうで、気分が悪い。ぐちゃぐちゃだ。
至近距離で甘くシャンプーが香り立つ髪も。
照れるたびに赤く染まる頬も、衝動で奪いたくなるような熟れたくちびるも、全部触れたくてたまらない。
「………」
たかが、添い寝。
けれどふたりきりで一夜を過ごして、知らないうちに痕を残せるような距離感に別の男がいると思うと、目眩がする。
いっそ、髪を掻き上げて上書きするように口づけたら。
俺の煮え切らない感情のせいで、ひのを泣かせてしまうかもしれない。──それがわかっていたから、何度も触れたい衝動を心にとどめた。
「……ひの、」
忘れたことなんて、一度もなかった。
──はじめから、忘れられるわけがなかった。
『お姫様に憧れたことなんてないの。
……でもあなたがわたしを姫にしてくれたから、お姫様も悪くないって思えたのよ』
『お姫様がえらいだなんて、誰が決めたの?』
『みんなに平等に接するからこそ、
お姫様になれる資格を持てるんだと思わない?』
『人を愛せないお姫様が、
誰かに愛されようだなんておこがましいでしょう』
『愛した分だけ愛情が返ってくるだなんて思わない。
それでもわたしが、相手以上に相手を愛せばいいのよ』
『……ねえ、綺世。
わたしを姫だと言うのなら、あなたはずっとわたしだけの王子様でいて。──わたしが誰かには返してもらえなかった欠けた分の愛情を、あなたから欲しいの』
そばにいると、誓ったはずだった。
規則正しく回っていた歯車がかみ合わなくなった瞬間はいつだったのか。俺にもまだ、はっきりとわかっていないけれど。