【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
制服からルームウェアに着替えて、リングをチェーンに通す。
スマホをポケットに入れてリビングにもどると、かのは既にお風呂に入ったようで。お母さんに「手伝うことある?」と尋ねれば「ひのちゃん」と静かに名前を呼ばれた。
我が家は女3人が、とても仲良しで。
時と場合によるけれど、お母さんはわたしのことを「ひのちゃん」と呼ぶし、それに感化されて妹のことはわたしも「かのちゃん」と呼んだりする。
「なぁに?お母さん」
「夕くん……ほんとにいい子よね」
「夕李? うん、いい人だけど……」
お母さんもそんなこと昔から知ってるはずなのに、どうしていま口にするんだろう。
昨日ここに夕李がいたから、ふと思い立って口にしただけなんだろうか。……それとも。
いつからだったか、人の真意を深く探るようになってしまった。
ただ純粋に気持ちを受け取れなくなったのは、きっと。……あのとき、からだ。
「夕くんほど、ひのちゃんを大事に思ってくれてる男の子はきっといないわよ」
「……うん、」
「夕くんね。
……ひのちゃんが今もずっと苦しんでるんじゃないかって、悩んでるみたいよ」
「っ、そんなことない……!」
言ってから、ハッとする。
突然大きな声を出してしまったことに「ごめんなさい」と謝れば、お母さんは薄く微笑んだ。
「そんなこと……ない。
夕李がいてくれるから、苦しまずにいられるの」
いちばんわたしが落ち込んでいた時に、手を差し伸べてくれたのは紛れもなく夕李だった。
彼がそうやってそばにいてくれたから、弱みにつけ込むようにわたしに好きだと口にした彼のおかげで、今もこうやってわたしはまっすぐ立っていられるのに。