【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



「っ…、ずっと、夕李がそばにいてくれてるのに……

いまだに、全然、消えてくれないの……」



なかったことを、あったことにするのは容易い。

だけど、あったことを"なかったこと"にするなんて、そんな息苦しいこと、出来るわけがなかった。



恋人つなぎ?出来るわけないじゃない。

ふたりきりでおとずれた、思い出のあるショッピングモールで。……しあわせだった頃の記憶をたどるようなこと、しないでよ。



それでも手をつなぐことを許してしまったのは、わたしがそれを望んだからだ。

自分に甘くてどこまでも都合のいい女。"もしも話"で期待する自分を、もはや愚かだと罵ることしか出来ない。



「っ、誰よりも好きよ……」



「……お姉ちゃん」



「っ、あやせ、」




──愚かでも、それでも、よかったの。

あなたの隣にまたいられるのなら。たとえかりそめの恋人でも、あなたの"彼女"でいられるのなら。もう一度、手を伸ばしてみたかった。



「夕李には、好きだって嘘ついて……

っ、ずるいってわかってるのに、」



夕李は、知ってた。

わたしが綺世との別れを悩んでいる夏から。ずっとそばで話を聞いて、別れた次の季節に、「俺が記憶を塗り替えてやるから」ってそばにいてくれた。



いまは好きじゃなくていいから、と。

躊躇する時間を与えてくれたのは、夕李も同じだった。わたしのまわりの人はいつだって、わたしに考える時間をくれる。



何よりもわたしの感情を優先する時間をくれる。

……夕李の与えてくれたそれは、付き合って数ヶ月になる今も、ずっと有効のまま。



「夕ちゃん……たぶん、わかってるよ。

お姉ちゃんが、自分のこと好きじゃない、って」



「っ……、」



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