【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
腰に巻いていたエプロンを外した彼女がそう言うと、「はいはいいってらっしゃい」と見送って。
さっき自分が出てきた扉の中へ引っ込んだ彼女を一瞥すると、わたしのバッグについた指輪を見つめるアサギさん。
というか結局アサギさんって男性なの?女性なの?
「普通のリングって感じだけど。
ピンキーリングだったり一方的にリングを彼女にただ贈るだけならまだしも、ペアでしょ?」
「でもそれには訳があって……」
「ペアを買うってことは、お揃いであることを自分たちにも実感させてほかの人間にも見せつけることになるのよ?」
それが目的なんです……!
見せつけるためのものなんです……!なんて。
深い事情を口にできなくて「そうですかね」とつぶやいてみたら、さっき真ん中の美少女が男の子であることを教えてくれた彼が。
おどろくことに、「綺世って鳴海 綺世?」と。……知っているような口ぶりで、尋ねてきた。
「え、そうです……お知り合い、ですか?」
「うん。双月(そうげつ)って知らない?」
双月……聞いたことがあるような、聞いたことがないような。
なんだっけと脳内の記憶をたどっていたら、あまり口を開かなかった奥の綺麗な顔をした男の人が、わたしに視線を向けた。
「双月は、関東トップの暴走族『蒼ノ月(あおのつき)』と『百夜月』を合わせた名称だ。
元は蒼ノ月がトップだったが、いまはもう名前だけで俺らのチームは代々形しかないからな。トップは破られてねえままだし、いま実力的にトップの百夜月と合わせてそう呼んでる」
ああ、そうだ。
もう形だけになってしまった蒼ノ月のトップを破ることは出来ない。だから、百夜月と蒼ノ月を、合わせてトップとしてそう呼んでる。
昔綺世に教えてもらったんだった。
関わることも少なかったし覚えてなかったけど。……というか、いま、俺らのチームって言わなかった?
「こいつら、蒼ノ月の現幹部なのよ。
いま説明してくれたのが総長で、手前にいるのが副総長。真ん中の女子が、幹部のひとり」