懐恋。
放課後、浮き足立ちそうになるのを必死に平常心を保って部室に向かう。
「先生、居ますか?」
ガラガラと音が鳴る引き戸を開ければ
「明音久しぶりだな。追試お疲れー。」
ってパソコンを覗いていた顔を上げて私を素敵な笑みで迎えてくれる。
「先生、勉強教えてくれてありがとうございました。」
先生が座っているソファに移動してちょこんと隣に座れば
「ふふ、名前で呼んで?久しぶりに明音の声で俺の名前呼んでるの聞きたい。」
ってまたそんな簡単にずるい事を言う。
「学さん、何見てたんですか?」
一緒にパソコンを覗き込めば
「明音の声やっぱいいな。」
先生から向けられる視線から逃げたくても逃げられないぐらい私を掴んで離さない。
「学さん…あなたはずるいです。」
そう言うのが精一杯の私の強がり。もうバレてるんじゃないのかなってぐらい全身全霊で先生の事が好きって溢れ出る。
「ずるい?どっちが?」
先生の聞いてくる意味が分からない。先生の方が沢山沢山ずるいのにどっちが?なんて聞かれても。
「あの、追試終わったので行きたいとこ考えました。」
そうやって話題変えれば先生の纏っていた空気も一気に変えてくる。何事も無かったかのようにどこ行く?なんて聞いてくるんだもん。やっぱり先生の方がずるいな。