懐恋。
見下ろしてくる先生の顔を見つめ返していると

「こっちおいで?」

ソファに座った先生は隣をポンポンと叩いて呼ぶので、私はそこにちょこんと腰を下ろした。テーブルの上にマグカップが置かれていて、飲んでいいぞと渡されたそれはココアの甘い匂いがしている。

「学さんココアなんて飲むの?」

「んー?たまーに、甘い物飲みたくなる時はそれ。普段はコーヒーだけど、明音はコーヒー飲めないだろ?」

あ、なんか私の事を知ってくれている先生に胸がキュンって鳴った。先生と居ると私の胸は忙しい。キュンって鳴ったり、ジクジク痛んだり。それでもキュンって鳴ることの方が多い気がする。

「腹減ったー。飯作ろ?こっち来て。」

立ち上がった先生に付いて行くとそこはキッチンなんだけど、意外にも器材や調味料がチラホラ置かれている。

「ねぇ、学さん、誰かと一緒に住んでたりしますか?」

だって、ペアじゃないけどマグカップ二つあるし。男の一人暮らしにしてはフライパンや鍋や調味料があるんだもん。女の人か誰かと一緒に住んでるのかな。なんて思ったりしちゃう。あ、今度は胸がジクジク痛みだす。

「俺一人暮らし。誰も住んでないし、家族以外で一緒に住んだことないけど。キッチン見てそう思ったなら俺料理するの結構好きなの。自分が食いたい時に自分が好きなもん作って食えるから。だから一人暮らし。」
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