懐恋。
「ん。」

資料を選別して、掃除をして、空気も入れ替わった頃先生が教室から出て行ったと思ったら、戻ってきた手にはココアが握られていて、それを私に差し出してくれる。

「ありがとうございます。」

受け取ったココアは液体の温度と先生の温度で温かい。お疲れ様、って合わされた缶同士から鈍い音が聞こえる。

「一条ちゃん、疲れた?」

「先生とやったからあっという間に終わったので大丈夫ですよ?」

「じゃあさ、もう1個お願いしてもいーい?」

じぃーっと見つめられて、先生の綺麗な瞳に吸い込まれそうになるのを見つめ返しながら、何ですか?と尋ねる。

「俺ねー、これでも数学教師だから資料とか用意しんねーといかなくて、今日買い物付き合ってくんねー?」

「え、買い物ですか?大丈夫ですけどいいんですか?」

「いいって何が?」

「資料の買い物に生徒が付いて行っても大丈夫なんですか?」

「あー、大丈夫ー。それより一条ちゃんこそ家の方は大丈夫?門限とかねーの?」

先生のココアはアイスココアのようで時折ゴクゴクって喉を鳴らしながら飲む姿は、大人の色気が漂ってるなーなんて考えていたら、買い物なんかに誘わられちゃってさっきから私の心臓がまたしても騒がしく動いている。
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