懐恋。
「乗って。」

先生の元に辿り着いた私は、目をぱちくり。

「なに?どーした?」

「あの…自転車ですか?」

「おう。俺免許取ってねーの。」

「乗ってってどこにですか?」

「ここ。」

そう言ってポンポンと荷台を叩く先生。

「あの!先生が2人乗りさせてもいいんですか?」

車で行くと思っていた私の前には自転車があって。サドルに跨って私を待っていた先生の足はスラッと伸びていて。あ、今はそんな事はちょっと置いといて…先生は先生のくせに2人乗りをしようって言ってくるから、それはちょっとダメなんじゃないかなと立ち往生してしまう。

「んー?まぁ確かに2人乗りは法律でダメだもんな。んじゃ一条ちゃんはこっち乗って。」

サドルから降りた先生は私の腕を引っ張って荷台に私を乗せたのちに、自転車を引きながら歩き始める。

「え、先生?これはどういう状況ですか?」

「んあー?俺が自転車引くから一条ちゃんはそこに座っといて。そしたら疲れないっしょ。」

こちらにくるりと振り向いて話してくれた先生は、鼻歌を歌いながら駅の方へと歩き出した。幸いにも私達が歩く道には他の生徒は居なくて良かったと思うのと、先生は御機嫌に鼻歌を歌っててそのメロディは凄く綺麗だからこのまま静かに居ようと思った。
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