懐恋。
「先生、次はどこ行きますか?」

その上目遣い。コテっと横に傾げる首。もう、本当に無自覚なのが困る。

「じゃあ、テーマ決めよっか。体育館部活してる輝いてる人。それを撮って部室戻って見せ合いっこしたら今日の部活は終了な。」

あくまで冷静に。ここは学校で、今は部活中って事を自分自身忘れないために最もらしい事を言えば、

「はい、分かりました。」

って笑うんだもん。本当にずりー奴だな。ご機嫌なのか鼻歌まで聞こえてくる。

「その歌何?」

「あ、聞こえてました?恥ずかしい…この間歌番組でやってた歌なんですけど、いい歌だなーって。」

「ふーん。何系の歌なの?」

「恋愛ソングです。先生、知ってます?」

そう言って得意気な顔して俺の方を見てくるから、無意識にポンって明音の頭に手を置いて

「知りません。楽しそうにしてるけど、今は部活中ー。」

って言うとすぐにシュンっとなってごめんなさい。って聞こえた。別に歌ってるからってことはどうでもいいんだ。あ、教師としてはよくねーのか?それよりも恋愛ソングってのが引っかかる。それはただ単にいい歌として歌ってんのか、それとも誰かを思って歌ってるのか。俺としては前者であってほしい。

「先生…怒ってます?」

「あ、怒ってねーよ。冗談。よし、じゃあ体育館に着いたからちゃんと部活すんぞー。」

「はーい。」

気にしてたくせに、怒ってないって言うとこれだもんな。明音は本当にずるい奴。
< 71 / 139 >

この作品をシェア

pagetop