課長の胃袋をつかみました
課長が私の料理を美味しいって食べてくれる姿は好きだった。
たったの一回、たまご焼きを食べただけだけど。

昔付き合ってた彼には結構尽くしてきた。
家に行ってご飯を作ってあげることも多かったけど、決まって反応はいつもどおり。
美味いともまずいとも言わず、作りがいがなかった。

だけど課長は本当に美味しそうに、結婚しようってガチのプロポーズをするくらいに私の料理を喜んでくれた。

私嬉しかったんだなぁ。

「私これからも作りたいです。ただ、、」

意気揚々と作る宣言をしたものの、通勤時間中に悩んでいたことを忘れたわけではない。
どうやって課長に渡すか、である。
作ったところで渡すのが難しい。
課長は平社員の私とは業務内容が異なる。
毎日ただ目の前の仕事をデスクでこなしている私とは違って、1日のタイムスケジュールも大きく異なるのだ。

つまりこの前の公園のように2人きりになるタイミングなんてほぼない。
ただの平社員の私が課長を毎日のように呼び出して、2人きりのタイミングでお弁当を渡すことなんてできない。
イケメン大人気課長を呼び出しなんてしたら女子になんで言われるか。
しかし堂々と人前で課長にお弁当なんて渡した日には、あいつは課長の何な訳!?抜け駆けすんな!も猛烈な攻撃に遭うだろう。

言葉を急に途切らせ、考え込んだ私を先輩は不思議そうに見ている。
私はハッとして、相手が課長だということを解らないように、それとなくお弁当を渡すのが難しいということを伝えた。

「なるほど、そういうことか。」

先輩は合点がいったというようにうなずき、そしてしばらく考えたのちこう言った。

「ならさお昼の時間までにお弁当を渡せなかったら、代わりに僕がそれを食べるっていうのはどう?」

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