課長の胃袋をつかみました
スペインバルを出たあと、時間が早かったということもあり2軒目へと向かった。

そこはなんともお洒落なバーで、日本酒を使った変わり種のカクテルなんかも揃えていた。

「先輩、本当にいいところたくさん知ってますね。うらやましい。」

「これからもたくさん教えてあげるよ。また2人で食事に行こう。」

先輩にそんなことを言われてしまって、以前までの私なら舞い上がってしまって大変だっただろう。
しかし私はついさっき課長のことが好きだ、ということに気付いてしまったばかりで。

私のなんとも言えないような雰囲気を察したらしい。

「茅野さんが好きな人がいるのは知っているんだけどね。だけどこの数日間君をみていてあまり報われるような恋愛をしているのではないのかなと感じていて。」

「そんな、不倫とかじゃないです。」

「そんなことを疑っているんじゃないけどさ。でも俺といた方が茅野さんはきっと楽しいと思うよ。」

真っ直ぐに私の目を見て、先輩はそう言った。

いくら私が鈍感でも、先輩が私に好意を向けているんだろうなということはわかる。

紳士な先輩だから、決して無理やりな言葉は言わないけれど、その視線が何よりも雄弁に語っていると思った。

本当にこの恋は報われないのだろうか。
なんならプロポーズまでされている。
だけど私には課長の真意がわからない。

揺らいでいる私の心に、その真摯な言葉はいとも簡単に染み込んでくる。
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