課長の胃袋をつかみました
ふと課長を見ると課長はパセリを食べていた。

……パセリ

私は初めて付き合った彼氏のことを思い出していた。

『お前、パセリ食べんの。』

彼はまるで異星人でも見るかのようにそう言った。
それが直接の原因とは言わないけど、彼とはすぐに別れた。

「……課長はパセリを食べる人なんですね。」

私はぽそりと呟くように言った。

「いや、もったいないから、せっかく食べられるのに。それに意外とうまい。」

なんだか心がじんわり暖かくなる気がした。

「パセリが何か?」
「………いえ、ただ…… 私はパセリ食べる人の方が好きです。」

課長は不思議な顔をして、でも それは良かったってにっこり笑って、それがたまらなく嬉しかった。



「今日は連れてきてくださってありがとうございました。」

時間はあっという間に過ぎて、あたりはすっかり暗くなっていた。
車は朝と同じようにアパートの前に止まり、私はシートベルトを外した。

「俺も楽しかったよ。また行こう。」

私は課長に笑い返して、名残惜しくも助手席のドアを開けようとしたとき

ガシッ

手首を掴まれて、課長の方を向かされて……

それは一瞬だった。
私の目の前にはいたずらっ子みたいに笑う課長。

「これで俺のこと、これから意識せずにはいられなくなるでしょ。」

「……お、おやすみなさいっ。」

混乱した頭でやっとのことで車を降りてアパートの階段を駆け上り自分の部屋に入る。
ドアに背を預けて、そのままズルズルとへたり込む。

「……ず、ずるい、こんなの反則……。」

胸がドキドキして、身体から湯気がでるように暑い。
私は唇に指で触れる。
唇にまだ課長の感触が残っているようだった。
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