モブAだって恋をする
理科室の中では相変わらず楽しそうな声がしていた。
スマホの画面ではタイマーが時を刻み続けていて、録音し始めてから18分が経とうとしていた。
先生の物語に私はいない。
私なんて学校の中にいる大勢の生徒のひとりで、運よく配役があったとしてもせいぜいモブA。
叶わないのなら、こんなに想ってもなんの意味もないのなら、いっそのこと壊してしまおうか。
だから私はこうして、ふたりの会話を録音している。
先生と生徒が放課後に名前で呼び合って、週末のデートの話をしているって知られたら〝付き合ってない〟なんて、そんな言い訳が通用するかな?
きっと大騒ぎになって、先生は責任を取るだろうね。
そしたら須藤さんだって学校に居づらくなるだろうね。
その幸せそうな顔をいつまでしてられるかな?
恋が綺麗なものだって思えるのは両想いになった人だけ。
片思いなんて、好きな人の心の片隅にも存在できない、とても儚くて苦しいものなんだよ。