モブAだって恋をする


「とりあえず帰ろうぜ。そこにいたらぶち壊す前に見つかるよ」

筒井はそう言って私の手を引っ張った。


たしかに中のふたりもそろそろ出てきそうだし、バラす前に見つかったら、それこそこんなに惨めな思いをして録音していた意味がなくなる。

私は筒井に言われるがまま立ち上がって、何故かそのまま一緒に帰ることになった。


「駅前に新しくたい焼き屋ができたんだって。小腹も空いたし寄っていかない?」

「………」

どうせ須藤さんは先生の車で帰るんだろうな。

前に駐車場で見かけた時、先生の助手席には可愛いぬいぐるみが置いてあって。

「今度ドライブ連れていってください~」なんてその他大勢の女子たちと先生に言ったら「この子が乗ってるからダメ」なんてクマのぬいぐるみを指さして。

すごくキュンッとして、こんな子どもみたいな笑顔で言うなんて反則だって思った。

今おもえば、あのぬいぐるみは須藤さんからのプレゼントだったんでしょ?


ああ、私ってなんで先生に恋なんてしたんだろう。

これじゃ、まるで失恋する為に好きになったみたいだ。

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