モブAだって恋をする
「私が弱ってるからすぐ落ちると思ってるんでしょ?」
残念ながら、そんなに尻軽ではない。
先生への恋心は遊びじゃなかった。
本当に本当に好きだったんだって、失恋して気づいたよ。
「俺はこれから頑張るんだよ。だからとりあえずたい焼き食いにいこうぜ」
筒井がニカッと笑う。
仕方ない。
片思いをはじめたのは自分なんだから、ちゃんと自分で終わりにしなきゃ。
私はポケットからスマホを取り出して、さっき録音した音声の画面を見つめた。
先生の幸せなんて願わないよ。
私はそんなに心が広い人じゃないの。
だけど、恋をしたことに後悔はしてないから。
だからライバルにさせてよ。
私、あのふたりよりも幸せになるから。
先生よりもいい人を見つけて、幸せになるから。
私は静かに〝削除〟のボタンを押した。
「おーい。麻里ちゃん早く行こうぜ」
向こうで筒井が私を呼んでいる。
「麻里ちゃんとか勝手に呼ばないで」
「いいじゃん。頑張らせてよ」
先生の物語に私はいなかったけど、いつか……いつか、誰かのお姫さまになれるようなそんな恋をするんだって、強くそう決意した。
――【モブAだって恋をする】END