街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「シカトしてないで、少しは自分の意思くらい表現したらどうなんだよ。
嫌なのか、家に帰りたくねぇのか、誰かと待ち合わせなのか、はっきりしろよ。
少しは声に出して主張しろよ。
ちゃんと声が出るならよ。」
正直、喋れないんじゃないかと思っていた。
本当に全く声を聞いたことがなかったから。
でもそういうわけでもなさそうだしな。
「……それでも喋らね「放っといて。」
またシカトされた。
そう思っていたけど、こいつは自分の言葉でそう言った。
「喋れんじゃん。やっとだな。」
素直に、嬉しかった。
こいつもちゃんと喋れるやつで。
なんにも喋らないところとか、ちょっと昔の智樹がそうだったから。
「でもな、こんなところでひとりでいる女を放って一人で帰るほど、俺はひどくねーんだよ。」
俺のその言葉に、いくら待っても返事はこなかった。
「……俺と喋りたくねーんなら、首を振れ。
誰かと待ち合わせなのか?」
仕方なくそう問うと、意外な答えが返ってきた。
「私は誰とも喋りたくなんかないの。
誰とも関わりたくない。
あなたたちに干渉されると吐き気がする。
わかったら話しかけないで。」
その言葉に、俺の頭の中のなにかが切れた。
"吐き気がする"?
智樹はあんな必死に毎日声をかけてんのに、吐き気がする?
こいつ…人の気持ちをなんだと思ってんだよ。
「その場かぎりの友達なんか、私にはいらない。
友情?恋愛?バカみたい。
そんなのになんの価値があるのかすら、私にはわからない。」
「……お前、なんでそんなに変わったんだよ。」