街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「……なんだよ、待ってるのもだめなのかよ」
「うん、だめ。
……でもまたいつか、
またいつかどこかで再会できたなら、その時は返事を聞かせてね。」
「…なんだよ、それ」
「ごめんね、自分勝手で。
でも私の中の一番は大翔だから。
大翔のこと大好きだから、大翔には笑っててほしい。
大翔の幸せは私が一番に願いたいから。」
そういう心優の目にはどんどん泪が溜まっていって、俺の目にも少しだけ泪が溜まっていって、
だけど歪んでいく俺の顔とは対照的に、心優は笑っていた。
俺を笑顔で包んでいた。
「だから、サヨナラね。」
たったその一言
その一言に、心優からの"好き"って気持ちが入ってて
俺は無意識に心優の腕を掴んで引き寄せ、抱き締めていた。
「大翔…」
「俺は忘れねーから。お前のこと。
まだお前のオムライス、食ってねーんだからな。
いつか俺をギャフンと言わせるんだろ?
俺にバカにされて悔しかったんだろ?
だったら、俺を見返しに戻ってこいよ。
俺ずっと待ってるから。
待ってるなって言われたって待ってるから。
きっと智樹も待ってる。青木も待ってる。
だから、だから…」
もう、俺の腕の力はどんどん強くなっていく。
強く強く、離したくないくらい、心優を抱き締めていた。
だけどいつまでもそうしてるわけにはいかなくて
俺も、前には進まなきゃいけなくて
「━━とりあえず、サヨナラだな。」
そういって、俺は心優から離れた。
「…ありがと。」
「このタオル、絶対いつか返すから。
ちゃんと取りに来いよ。」
「ふふ、それを言ったら私だって大翔のカーディガン、借りたままだもん。」
「あ、そうだった。
じゃあそれちゃんと返しにこいよな。」
「はいはい、わかりました。」
「忘れんなよ。」
「大翔もね。」
俺らはそういって笑い合った。
「…じゃあ、私行くね。」
「……おう。頑張れよ。」
「大翔も、ちゃんと寝坊しないで学校行くんだよ?
サボってばっかじゃ卒業できないんだからね。」
「わかってるわ!」
「じゃ、先降りるね。
バイバイ、大翔。」
「おう。じゃーな、心優。」
最後に名前を呼び合い、ちゃんと目を合わせて
心優は俺に背を向けた。
その背中には俺と一緒のキーホルダーがついたリュックがあって
「頑張れよ!」
そう、背中に叫んでいた。
「うん!ありがと!」