街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー



心優の背中が見えなくなり、俺は廊下の窓を開けて窓枠にうなだれた。

ここから見える夕日は赤く染めてくれないけど、それでもやっぱり綺麗で
その明かりに照らされたくて外を見ていると、向こうに校門を出ていく心優が見えて


「心優!!」


俺はまた、叫ばずにはいられなかった。

心優はなにもいわない。
だけど、大きく手を振る俺に応えるかのように大きく腕を振ってくれて


「ありがとな~!!」


そう思いっきり叫んだ俺の声は心優に届いたのかわからないけど、心優は前を向いて歩き出した。

ここへ来たときと同じように、前だけを向いて髪をなびかせて歩いて行った。


その背中が見えなくなるまで、俺は腕を振り続けた。
そんなことしかできなくて、流れそうになる泪は必死に我慢した。

永遠の別れなんかにしたくなくて
だけどこれを流してしまったら俺の願いが叶わなくなりそうで
ずっと笑顔で、心優を見送った。


「……俺も、前に進むか」


心優が見えなくなって、俺は窓を閉めて歩き出した。

心優に言われたから。
寝坊をするな、サボるなって。

だから、俺は今の俺とサヨナラしたくて
職員室のドアを開けた。


「先生~、鍵拾ったんだけど」


私服だけど、代休だけど
教師たちは仕事だからここにいるしな。


「え、鍵?なんの?」


担任は部活でいないけど。


「さぁ?それはわかんないけど、この学校のじゃね?」


「そう、ありがとね。」


俺は、俺の秘密基地を手放した。
もう俺のサボり場ではなくなるけど、そんな場所があるから悪いんだと思うから。

俺も、心優には負けてられないから


西館のあの鍵は、俺にはもう必要なかった。


< 185 / 217 >

この作品をシェア

pagetop