街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
心優の背中が見えなくなり、俺は廊下の窓を開けて窓枠にうなだれた。
ここから見える夕日は赤く染めてくれないけど、それでもやっぱり綺麗で
その明かりに照らされたくて外を見ていると、向こうに校門を出ていく心優が見えて
「心優!!」
俺はまた、叫ばずにはいられなかった。
心優はなにもいわない。
だけど、大きく手を振る俺に応えるかのように大きく腕を振ってくれて
「ありがとな~!!」
そう思いっきり叫んだ俺の声は心優に届いたのかわからないけど、心優は前を向いて歩き出した。
ここへ来たときと同じように、前だけを向いて髪をなびかせて歩いて行った。
その背中が見えなくなるまで、俺は腕を振り続けた。
そんなことしかできなくて、流れそうになる泪は必死に我慢した。
永遠の別れなんかにしたくなくて
だけどこれを流してしまったら俺の願いが叶わなくなりそうで
ずっと笑顔で、心優を見送った。
「……俺も、前に進むか」
心優が見えなくなって、俺は窓を閉めて歩き出した。
心優に言われたから。
寝坊をするな、サボるなって。
だから、俺は今の俺とサヨナラしたくて
職員室のドアを開けた。
「先生~、鍵拾ったんだけど」
私服だけど、代休だけど
教師たちは仕事だからここにいるしな。
「え、鍵?なんの?」
担任は部活でいないけど。
「さぁ?それはわかんないけど、この学校のじゃね?」
「そう、ありがとね。」
俺は、俺の秘密基地を手放した。
もう俺のサボり場ではなくなるけど、そんな場所があるから悪いんだと思うから。
俺も、心優には負けてられないから
西館のあの鍵は、俺にはもう必要なかった。