街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
エレベーターに乗り込み、三階のイベント会場へたどり着いて招待状を出して中に入れば立食形式で、もうすでに多くの人がスイーツを食べていた。
そんな中で、一際目立つ赤く輝く丸いスイーツがあり、俺はそれに引き寄せられて手に取った。
「すっげ…なんだこれ…」
崩してしまうのがもったいないくらい、赤く輝く丸いスイーツ。
思わず見とれてしまうくらいに…
「おぉー、これが噂の最優秀賞のケーキですか。」
「噂によればまだ20代前半の女性だとか」
そんな噂話が俺の耳に入ってきた。けど
…ケーキ?これが?まじで?
半信半疑になりつつフォークで二つに割ってみれば、確かに中はスポンジで、酸味が広がるかなと思いきや甘い香りが俺の鼻を包み込んだ。
その甘い香りはなんだかどこか懐かしい気もする。
じゃあ一口、なんて食べようとしたのに
「ご来賓の皆様、ステージにご注目ください。」
そんなアナウンスが始まり、俺の手を止めた。
俺の知ってる新作お披露目会っつーのはこんな式的なものじゃないんだけど
…やっぱ、最優秀賞を獲った人がいるからか?報道陣もすごくてちゃんとそれに応えるような形となっていて、司会者がサクサクと進めていく。
一つ一つ、スイーツを作ったパティシエがそのスイーツに込められた思いや製作秘話的なのを話していた。
いちいち長いけど、その話をみんなが真剣に話しているから俺もこの赤いやつを食べるに食べられない。
つーかこれ、名前なんなんだよ。
…なんとか、ルージュ……なんとか。ダメだ、読めねー。
そんな俺の格闘をよそに司会者はどんどん進めていき、
「それでは、ville rouge Teintsで最優秀賞を獲られました、仁科心優さんに登場していただきましょう。」
「━━え?」
なぜか、すごく懐かしくて愛しい名前が聞こえた気がした。