街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「えー、このデザートは一つ140円という信じられない価格で食べられるそうですが
なぜそのような低価格で作られようと考えたのですか?」
「気軽に食べてもらえるように、ですね。
特別な日じゃなくても、記念日や誕生日じゃなく、なんでもない日常が幸せなんだと私自身が気がついたからです。
そのなんでもない日の幸せに、私のケーキも入れてもらえればと思いまして。
……それに、今回のコンテストではどうしても、作りたいケーキがこれだったからです。
高い材料を使うわけではなく、どこの家庭でもすぐに手に入れて、誰でも簡単に作れるホットケーキミックスを使って、見た目は立派なケーキをどうしても作りたかったんです。」
……ホットケーキ…?
え、まさかこれが…?
「…なぜ、そのように考えられたのですか?」
「たとえ体調を崩してしまっても、簡単に作ることができるからです。
たとえもう長く生きることができないような人でも、誰かを喜ばせられるように、簡単に作り上げたかったんです。」
その言葉を聞いて、俺は思わず一口食べた。
誰も食べていないこの空間で、俺は赤く輝くケーキを口に入れた。
「……はは、うま…」
なんだよ、めっちゃ甘いじゃねーかよ。
酸味なんて感じさせないのかよ。
……なんなんだよ。こんなところで泣かせんなよ…
「それに低価格だったら、たとえひとりぼっちになってしまった小さな子供でも、お小遣いで買いに来れますからね。」
「なるほど~、確かに小さなお子さんでも気軽に食べられる価格ですね。」
「はい。
それで少しでも今を幸せに感じてもらえたら、明日を楽しみにしていただけたら、私も嬉しいです。」
「そうですか、ありがとうございます。
最優秀賞、本当におめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
下を向き、必死に泪を堪えた俺をよそに、式は終わった。