街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「━━よし。」
挨拶が終われば、いよいよ商談話。たくさんの人が集まっている中
「Le copainの七瀬と申します。
先程の話、とても感動いたしました。」
負けじと、俺も名刺を差し出した。
「え……、だい…」
どの相手も笑顔で名刺を受け取る中、俺に向ける目はとても驚いていて、俺の名刺なんか全く見ていないけど
「よろしければ、あちらでお話いいですか?」
婚活パーティーかのように、俺はこのパティシエを誘った。
他のどっかの店のやつらの視線が痛い。……でも、こいつだけは譲れない。絶対に。
「……このホットケーキで幸せを感じる喜びを、私は誰よりも知っています。
なんでもないその日に、大切ななにもかもがそこにあったことを、私も誰かに伝えたい。
あなたと同じ想いを私も持っています。」
きっと、他のやつらにはわからない。
俺が誰よりも知ってるんだ。このホットケーキに込められた想いを。
大切な人が気持ちを込めて作った、特別な材料なんてなにも入っていないホットケーキの意味を。
「……わかりました。」
そういってやっと俺の名刺を受け取り、俺に笑顔を向けた。
可憐で、綺麗で、俺の嫌いな笑顔を。
「では、あちらに。」
「はい。」
この人だかりの中、俺はこのパティシエを連れて会場を出た。