街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「本当は料理人になりたくてフランス選んだんだけど
大翔から聞いたお母さんが作ってくれたホットケーキの話がどうしても忘れられなくて
それで、パティシエを目指したんだ~。」
「え、まじか。俺の影響?」
「っていうか大翔のお母さんの影響?かな。
体調が悪いのに子供のためにって、簡単でもいいからケーキを作ろうって気持ちが素敵だと思った。
それを、息子の大翔が今でも覚えていて、涙まで流せるなんて素敵だと思った。
だから、かな。」
「…そか。」
なんか、素直に嬉しくなった。
あの母さんのケーキや気持ちを、俺以外にも理解してくれてる人がいて
忘れられてなくて……
「…心優のあのケーキ、めっちゃうまいもんな。」
「でしょ?」
その可愛すぎる笑顔がちょっと憎たらしいけど
「…ま、母さんには負けてるけど。」
でも、やっぱ俺はその笑顔が大好きだ。
「母親の味を越えようなんて、そんなことそもそも考えたことすらないからね。
自分の母親の料理よりも美味しいなんて感じるのは体に悪いものか、親の愛に気づけていない愚か者だから。」
……ちょっときついところもな。
「…ま、偉そうに言ってるけど私もまだ親の愛に気づけていない愚か者だけど。」
「はは、それがわかってるだけ十分だろ。
さてと…あそこのベンチ座ろ。」
公園についてすぐ、とりあえず近くのベンチを目指す。
場所なんてどこでもいい。
ゆっくり話をしたい。早く話したい。
すっかり秋めいた紅葉の下のベンチに、俺らは並んで腰を下ろした。