街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「高校生になって、半年がすぎたくらい…高1の夏休み明けくらいかな。
その友達に彼氏ができたの。
なんか…ずっと女子校で生きてきた私には彼氏とか、そういうのは無縁だったの。
正直、今共学なのも全然慣れないくらい、男子と接する機会がなかった。
そんな同じ環境で育ってきたのに、友達には彼氏ができて素直に羨ましかった。
恋愛なんて全くしたことなくて、同世代の男子と話したこともないのに恋愛に憧れ始めたの。」
……高1で初恋もまだだった、と…
それはそれである意味すげぇっつーか、なんつーか…
「と言っても私は女子校育ち。
相手なんて当たり前だけどいなかった。
なにも変化がないまま、私たちは2年生になった。
友達はやっぱり彼氏と仲が良くて、それが本当に私も嬉しかったの。
大好きな友達が幸せそうで、なにより彼氏のことが大好きで、本当に応援していたの。」
ずっと淡々と喋っていたのに、そういう仁科の顔は苦しそうで
無頓着な俺でも、その友達と何かあったんだな、ということはわかるくらいだった。
「そんな毎日が過ぎてく中、私は親と大喧嘩したことがあって。
私は一人娘だからさ、親の期待なんかも全部背負わなきゃいけなくて
だから当然、会社を継ぐ人と結婚しなきゃいけないわけで
……ろくに恋愛もしたことない私に、いきなり婚約者ができたの。」
「え、婚約者?高校生で?」
「そ。
相手ももちろんお金持ちのご子息。
それがまた笑っちゃうくらい見た目が好みじゃなくて。
人は見た目じゃない。それはわかってる。
それでも…私はずっと見た目に気を付けてきた。
少しでもきれいになるように、身だしなみ、しぐさ、姿勢、すべてに気を付けてきた。
綺麗な女性になりなさい。
そう、言われ続けてきたから……
……なのにさ、連れてきた男性は太ってるし髪の毛もきれいとは言えないし、清潔感すらなくて。
正直、こんな人絶対無理だ、って思ったの。
親が連れてきたとしても、私がその人に恋できるような相手なら構わなかった。
なのに、食事すらきれいに食べることのできない人で…
…親のことはずっと尊敬して生きてきた。
だから尊敬してきた分、幻滅したの。
あんなに私に求めてきたこととは違う人を連れてきて、連れてきた人のお父様は大きな会社の経営者。
私を仕事の道具にしている、ってすぐにわかった。
だから私お父さんにいったの。
あなたのしようとしていることは人身売買となんの変わりもない、って。
それで大喧嘩。
私はそのまま家を飛び出したの。」
仁科はもう、ずっと下を向いたまま前を見ることはなかった。
いつだって前ばかりを見ていた仁科が、下を見つめたままそう話し続けていた。