街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
「それからはもう毎日が言い争い。
それでも私の同意がなければ下ろすことはできないのが法律だから。
……でも、産むなら私なりのけじめは必要だと思った。
だから友達…愛梨にも、ちゃんと話そうと決めたの。」
「じゃあ、その友達にも…」
「うん。愛梨の彼氏と恋人関係にあって、妊娠していること。
もう別れているけど、お腹の子供を産んで育てたいということをきっちり話してきた。
そしたら愛梨、すごいショック受けてて
彼のこと大好きだったから本当にショック受けてて、しかも浮気相手がずっと友達やって来た私で、謝ってもなにも返っては来なかった。」
それは、さっきまでの仁科とはまた違う表情で、淡々と他人事かのように無表情で話し続けた。
「その次の日、うちに連絡が来たの。
愛梨が、自殺したって。」
「え!?」
自殺…?え、嘘だろ…?
「それで私、すぐに病院に行ったの。
でも愛梨はもう、息をしていなかった。
眠るように、静かにそこにいたの。
それで言われたの。
愛梨を返して、って……
愛梨のお母さんに、怒鳴りながらそう言われたの。
私、なにがなんだか全然わからなくて、でもすぐに警察の人がきて、愛梨の部屋にあった遺書のコピーを渡されたの。
"もうなにも信じられない
ずっと信じてきた心優にも裏切られて、生きていくのが嫌になりました"
って、愛梨の字で。
確かにそれは愛梨の字で……」
「で、でもそんなことで…」
「愛梨にとって、私の裏切りはそんなことじゃなかったんだよ。
だって私たち、物心つく前からずっと一緒にいたんだよ。
一人っ子同士、毎日一緒にいたんだよ。
彼だって、愛梨にとっての初恋で…私が彼と愛梨のことがすごく好きだったように、愛梨にとって私と彼はすごく大切だったんだよ。
大切だったからこそ、深く深く傷ついたんじゃないかって、そう思ったの。
だから、私は逃げた。
その場にいられなくて、私は逃げた。
愛梨をそれだけ傷つけた事実と、愛梨を失った事実。
きっと、あなたにはわからない。
誰にもわからない。
わかってほしいとも思わない。
私たちはそれほど、相手のことを大切にしていたの。」
ずっと無表情だった仁科の顔が、今はもう泣きそうなほど苦しい顔をしていて、俺はもう後悔の念にかられていた。
なんでこんなことを話させているんだろうって
俺がこんな話、聞いていいわけないのにって……