５年３組パラダイス
そっか、それで、僕はお母さんが夜遅くまでお仕事をして帰りが遅くなっても、わがままを言わずに一人でご飯を食べたり、お買い物も一人でできるようになったんだ。と、第三者のように客観的にお父さんとの日々の会話を夢で見ながら思い出していた。

そんな夢の中で蘇った、お父さんの言葉の数々。

「自分が得意なコトを一生懸命頑張っていればそれで良いんだ。」

そう、この言葉は日々、繰り返し言っていた。

「そのかわり、おまえは自分の得意な『スポーツ』では絶対に負けるな。」

「ここぞと言う時に、勝負に勝てる男になれ。」

「負けた時は言い訳はせず、次の戦いまでに勝てる自分をつくれ。」

「敵は周りの誰でもない、勝てる自分を作れない自分自身だ。」

「自分自身に勝った時、必ず勝利は訪れる。」

「これはな、父さんが経験してきたことの答えだ。学校でテストを受ける前に答えを知るのは反則だけど、スポーツにおいては先に答えを知っても反則ではないからな。父さん、東京に行っても、遠くからでも将太のこと見てるからな。」

当時まだ２年生だった僕には、お父さんが残してくれていた言葉の数々の意味を、そんなに深く理解してはいなかった。

だけど、今なら分かる。
分かるんだ。

僕は今日、必ず勝たなければならない。

かつお君に、最初で最後の運動会で勝利をプレゼントするんだ。

日頃のどんな体力作りだって、頑張ってきたスポーツだって、今日、勝たなければ何の意味もない。
今日、もしも僕が負けたら、僕はこの先一生大好きなスポーツをするのをやめたっていい。

この日、僕は初めて、勝つことを意識した『勝負の朝』を迎えた。

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