時の歌姫
「塔子! 早く!」

テントの奥から男の人の鋭い声が聞こえてハッとする。

パイプ椅子の隙間から、逞しい腕が彼女の肩を抱いて連れ出そうとしているのが見えた。


「でも! あの子が」

彼女はあらがうようにそう言ったけど、

押し出されるようにして、やがてその姿を消した。


行っちゃった。

やっぱり彼女が塔子だったんだ。


気が抜けて視線を落としたあたしの目に映ったのは、

異様に目をギラギラさせた男の顔。

「ちくしょう!」

なんて口汚くつぶやきながら。


もしかしてあたし、ピンチ?
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