時の歌姫
地面への激突はまぬがれたと気づいて、徐々に体の力を抜いたものの、

なぜか、視界が効かない。

そのかわり、やけに鋭くなった嗅覚に強烈に訴えるのは、


雨の日の野原みたいな。

滴に濡れた葉っぱみたいな。


子供の頃を思い出して、ちょっとだけ切なくなるような、緑の薫り。 


何だろう。

さっきまでの殺伐とした緊張が急速にほどけていく。

そうっと手を伸ばしてみると、カサリと何かに触れた。

この感触は本当に、葉っぱ!?
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