時の歌姫
「お待たせしましたぁ」

「サンキュー」

広げていた新聞から顔を上げると、あたしの方を見て笑う。


くっきりした黒い瞳でいつも真っ直ぐ目を見てくるこの人は、初めから印象的だった。

半年前からうちのコーヒーを飲みにくるようになって、最近は週一二回は顔を出してくれる。


「今日はモールにも人が少ないな」

「昨日あんなことがありましたからね」


暴動のせいか、今日のお客さんはこれで三人目。

あきらめた店長は裏で居眠り中だ。


「ミチルは昨日もいたのか?」

低い声で自然に名前を呼ばれて意味もなくドキドキしてしまう。

あたしってお子ちゃまだ。

「いましたよ。すごかったです」
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