時の歌姫
睨みつけようとしたけど、
心なしか頬を赤らめているヤツの顔。

なんかペース狂うなあ。


「はいっ。忘れ物」

切り出しづらくなる前に、真っ直ぐ手を伸ばして差し出した。


「あ。俺の財布」

デニムのお尻を触って定位置にないことを確認すると、

「ありがとう」

やっとおずおずと手を伸ばして来る。

簡単にはなつかない野良猫みたいだ。


大きな手のひらに受け渡して、任務完了。


また変なことにならないういに、ときびすを返した頭の上から、

ハラハラと葉っぱが落ちてきた。

まるで、まあまあ、とあたしの頭を撫でるように。

上を見上げると、しなる枝の隙間から笑顔みたいな木漏れ日が差してる。

つられて頬が緩んだ。


「優しい子だよね」

「え?」

驚きの声をあげるヤツ。
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