時の歌姫
「この木。昨日あたしを助けてくれたでしょう?
あれ、あなたの力でしょ」

素朴で優しい光の下で、

つんけんしてるのもなんとなく馬鹿らしくなって、思わず言葉が口をついていた。


ヤツのアーモンド型の目が丸みを帯びて、

「あ、あの鈍くさいのおまえか!」


はい、優しい気持ち終了!

「じゃ、渡したから」

後悔の気持ちいっぱいで、今度こそ素早くきびすを返したのに、


「待て待てって!」

腕をつかまれた。

仕方なく無表情で振り返ると、

思いっきり困った顔したヤツ。


ああ、またペース狂う。
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