時の歌姫
口火を切っておきながら、はあっと息を吐いて両手で顔を覆う。


ほんとヘン。

それにちょっと嫌な予感。

あたしの冷たい視線に気づいたのか、ヤス兄は二度ほど咳払いをすると姿勢を正した。


「いや、今度さ、芸能の方を担当することになってさ」

「芸能?」

ヤス兄は広告代理店に勤めている。

あんまり大きな会社じゃなくて、これまではあやしい健康器具なんかの広告が多かったみたいだけど。


お金の出せない新人でも担当することになったんだろうか。


「お笑いとか?」

「いや。歌手」


壊れた夢のかけらが、胸をズキンと刺した。
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