時の歌姫
「ふうん。誰?知ってる人かな」

せめて男の子だったらいいのに、なんて思いながらも、

あたしのセリフは完全に棒読み。


だけど、

「いやあ、知ってるかなあ、ミチルは」

ヤス兄のテンションは全く落ちないし、むしろ嬉しそう。

もう悪寒がするほど嫌な予感。


「シルク」

「えっ?」

「シルクって言うんだ。彼女」


滑らかな布地の名前は、

なぜかあたしの耳をザラザラと擦った。


鮮やかに目に浮かぶ昨日見たテレビの画面。

歌姫の名にふさわしい、白く繊細なシルエットだった。
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