甘い秘密と苦いウソ
「言いにくいんだけど、わたし赤外線のやり方わからないんだよね」
わたしは自分のスマホを出しながら言った。
普段から使う機能はごく一部に限られ、ましてや新しく誰かのアドレスを自分で追加したことなど一度もない。
親友や兄がその辺のことは全部やってくれていたし、誰かと連絡を取ることの必要性があまりなかったことが原因だ。
それなのに久我君は慣れている。ある意味、わたしからすると尊敬するに値する。
「じゃあ、貸して」
おとなしくわたしは久我君の指示通りスマホを久我君に手渡した。
左右の指が華麗に動く。
速い。速い。…速すぎじゃない!!
完全に慣れていらっしゃる。
きっとそのスマホにはたくさんの人のアドレスという名の個人情報が入っているのだろう。
「はい」
ほんの少しの時間でお互いのアドレス交換が済んでしまった。
わたしは久我君に自分のスマホを受け取りアドレス帳を開いた。
その中からカ行で、久我という文字を探した。
だが、
カ行には久我が存在しなかった。