夢物語【完】
久しぶりに感じる涼の温もりはかなり安心した。
大好き、とか、安心する、とか、そんな言葉で表せないくらいの感情。
なんていったらいいんだろう。
充電、っていうか、俺の中の涼が満たされてく感じ。
足りない部分が満たされて正常に戻ってく感覚。
俺には涼が足りないとダメなんだなって思わされた。
月に一回は会いに来てくれる。
俺がなかなか行けないから会いに来てくれるんだけど、それだけじゃやっぱり足りない。
本当は、これからのことについてゆっくり話したかった。
毎日も、曲も、俺の中では涼が全部関わっていて、涼と出逢って変わったことが多いことに気付いた。涼を近い場所に置いておきたくて、少し先の未来のことまでも考えるようになってた。
俺は涼が源で半分以上は涼のために歌ってる。
恋の唄なんて書かないしたまにしか歌わないけど、全ての歌詞は涼が関わってる。
感じたことも考えさせられたことも、今までの俺とは違うことも涼がいたから。
「俺と一緒に...」
俺の腕の中で眠る涼にそこまで話しかけて止めた。
眠ってる涼に言ったって返事は返ってこないし、このタイミングで言ったって迷惑に思われるのはわかってる。
ちょっと言ってみたかっただけだ。
本音としては俺の傍でいてほしいけど。
「んー‥ふふ」
「‥‥寝てんのかよ」
少し目を開けて微笑むから起こしたのかと思ってドキドキした。
新幹線で二時間。
たった二時間だけど、されど二時間。
その二時間の距離が俺には恋しすぎて遠すぎる。
できれば手の届く距離で、いつだって会える距離でいたい。
涼だってそうだと思う。
互いの生活もあってリズムもあって、そう簡単に思うようにはいかないのが現実。
涼が手の届く場所にいたとしても不規則な俺の生活に嫌気がさすかもしれない。
もしかしたら今の生活のままの方が良かったと言うかもしれない。
そう考えると安易に口には出せない。
もう少し落ち着いたら、なんて言えないし、いつ落ち着くのかもわからない。
だから今はこの腕の中で眠る涼を大切にして、この寝顔を忘れないように焼き付けて明日への活力にして、そして遅かれ早かれ実現したい一番近くに涼を置いておける未来に向かって頑張ろう、と思った。
一緒にいるだけで幸せ感じるって本物だと思えるのは俺だけじゃないと思う。
以前、キョウが『幸せだ』と呟いていたことを思い出した。
散々なイブだったけど、明日もオフだし。
もしかしたらオプション付きかもしんないけど楽しいクリスマスになりそうだ。
プレゼントをせがまれたときには出さなかったけど本当は持ってきてる。
ポケットにそのままの状態で持ち歩いていた。
箱で渡すようなカッコイイ真似はできない。
だから最初からこうするつもりだった。
ポケットから小さな石が埋め込まれたシンプルなリングを左手の薬指にはめる。
そして、俺のモノだという念押しにキスを落とす。
キョウじゃないけど、離れてる分、不安にはなる。
正直で素直な涼だから心配することはないけど念のため。
まぁ、世間でよく言う“虫除け”みたいな感じ。
じゃなくて、“首輪”かも。
俺の小さな束縛だ。
鈍な涼のために用意した自分のためのクリスマスプレゼント。
涼が朝目覚めてどんな反応をするのか楽しみだ。
多分、朝は気付かなくておばさんやおじさんに言われて真っ赤になる涼が想像できる。
それまでに気付いたらなんて言おうか。
そんなことを考えると幸せで自然に笑顔になる。
額にもう一度キスを落として抱きしめる。
抱きしめるとやっぱり傍においておきたくなる衝動に駆られたけど‥‥今日はイブだ。
腕の中で眠る涼を感じながら俺も目を閉じた。
END