夢物語【完】
キスされてる間はずっと目をつぶってて、何がどうなってんのかわからんかった。
部屋の端にいてんのか、真ん中にいてんのか、全然わからんけど、今はわかる。
足にベッドが当たる。
少しずつ移動してたらしいあたしはキスの余韻もあって、肩を押されると、呆気なくベッドに倒れた。
「手、離れたな」
それをいいことに、高成はあたしに覆いかぶさるようにベッドに上がり、あたしの頬を撫でる。
その顔が、あたしを見るその笑顔があたしの心臓をキュンキュンさせる。
もうこれ以上ないってくらい心臓が早くて、緊張はピーク。
「顔真っ赤」
そう笑う高成は頬を触れてた手を滑らすように首筋に、そして、鎖骨から肩を撫でる。
そして、待ち望んでた唇にキスが降る・・・と思ってたら。
「あ、風邪ひいてたんだっけ?」
と、笑ってあたしと距離をとった。
え?!
サプライズって言うたのに!?
離れてく高成の腕をがっしり掴んで阻止する。
「ボーカルの俺に風邪うつす気?」
眉を下げて、本気で嫌そうにする。
風邪じゃないのに、嫌がらせってか、意地悪で言うてるってわかってんのに、その態度に傷付く。
ギュッと袖を掴んで睨みつけてやる。
「風邪」
「風邪とちゃうもん!!」
寸止めとか寂しいし、キスしてほしい。
「知って、る」
笑って言うから、掴んでた手を首に回して、あたしから近付いてキスしてやった。
「ん?!…高成っ」
軽いキス一回で終わるはずやったのに、後頭部を先に取られて形勢逆転。
呼吸の間に名前を呼んだことでヒートアップしたらしい高成は、これ以上ないくらいのキスをする。
「ナリ、初詣行くぞ」
空気読めない男、涼介がドアをノックして開けようとする。
「おーい、鍵かけてナニやってんのよ」
アイツらナニしてんぞー、とリビングに向かって叫ぶ声で、さすがのあたし達も離れた。
てか、“ナニ”って何よ。何もしてないし。
・・・キスしてただけやし。
「“ナニ”って、キスしてただけじゃん」
厚かましいと思う。
乙女やと思う。
でも、でも、ヤバイくらい嬉しく思う。
一つの出来事に対して、同じ感覚で、同じ気持ちでいられるってのが、ほんまに嬉しい。
恋人同士やったら当たり前なんかもしれんけど、そんな些細な気持ちが何よりも嬉しい。
「ほら、涼行くぞ」
ベッドに腰掛けたままのあたしに手を伸ばす。
手を伸ばすとギュッと握ってグッと引き上げられる。
「おもっ」
「なにっ?!」
反射的に言い返すと、「嘘だよ」と笑う高成に、また胸がキュンとする。
やっぱり会いにきてよかった、そう思える。
カウントダウンを一緒に過ごすのもいいかもしれん、とも思えた。
一年を高成と一緒に終えて、新年を一緒に迎える。
そう考えたら、昨日から高成に会えばよかった/と少し後悔した。
でも、陽夏ちゃんとの年越しも楽しかったし。
―――来年は高成と一緒に過ごせたら。
そんな期待を抱きながら、あたしは高成の手をギュッと握る。
「手ぇ繋ぐなや」
「独り身は寂しくて残念だな」
「私、誰か紹介しましょうか?」
「んなもんいらんわ!おい、お前ら手ぇ離せ!俺が浮くやろうが!!」
そんなやりとりをしながら5人で初詣。
繋いだ手は温かい。
合った視線に自然に笑みが溢れる。
そんなあたし達を余所に、独り身の涼介の叫びは夜の街に大きく響いた。
-完-