夢物語【完】
店を出るまで、私の言葉に返事はくれませんでしたが、それもいつものことなので京ちゃんとは特に会話をすることなく、ひたすら話し続けてランチを終えました。
お店を出てからは車を置いたまま港のほうへ向かい、展望台へ歩き出しました。
ここは私達が高校生の頃からのデートコースで、夜は海がキラキラ光ってとっても綺麗なんです。
そして、一番最初にデートに決めたのもこの場所でした。
「久しぶりに来たね」
「寒くないか?」
「ちょっと風が冷たいけど、大丈夫だよ」
展望台に入るとたくさんの恋人達がいて、みんな手を繋いで幸せそうに海を眺めています。
地平線が見えるこの場所はデートスポットでも有名なんです。
ふと隣を見ると、高校生の初々しいカップルが恥ずかしそうに手を繋いではにかみながら話しています。
二人の距離も微妙に開いていて、肩がぶつかると恥ずかしそうに笑い合っています。
「私達もあんな感じだったかな?」
京ちゃんに尋ねてみると「忘れた」と言われてしまいましたが、きっと昔の自分を思い出すのが恥ずかしいだけで口に出したくないんです。
あの頃は自分のことばかり考えていて互いを思いやる気持ちまで心が追いつきませんでした。
京ちゃんが大好きで、京ちゃんは私の気持ちを信じ切れなくて、なんだかぎこちない青春を送っていたような気がします。
それも今となっては杏もいて、花蓮も私達を両親として選んでくれて、今お腹の中には慧斗がいます。
あの頃の私達がいて、今があります。
過程はどうであれ、今は一緒に生きていられる幸せがあるんです。
「帰るか」
京ちゃんがあたしを見下ろしながら優しい声で言います。
「うん、お家でゆっくりしたいね」
頷くと京ちゃんは私を引き寄せておでこにキスをくれました。
人前でそういうことをしない京ちゃんなので、正直目を見開くほど驚きましたが、これもクリスマスの魔法だと思うことにして、繋いでる手をぎゅっと握り返しました。
おうちに帰れば、杏がいない二人だけの世界に浸れます。あ
、慧斗がお腹の中にいますが、今はお昼寝をしてもらえると嬉しいなぁ、なんてお腹をさすりながら伝えます。
「京ちゃん、大好き」
「・・・」
「なんで無言なの?」
外で聞いたのがよくなかったのか、京ちゃんは私の顔を見るだけで何も言ってくれませんでしたが、きっとおうちに帰れば言ってくれると思うんです。
もし言ってくれなかったから無理矢理にでも言わせようと思います。
だって今日はクリスマスイブ。
世界中の恋人達が幸せにならなければいけないんですから。
そんなことを京ちゃんに言うと、また呆れた顔をされるのかもしれませんが、それでも願ってしまうんです。
私が幸せになるためには全ての人が幸せにならなければならないんです。
だから今夜、全ての人々が幸せでありますように―――。
Happy merry Christmas...
End