夢物語【完】
「あれ、高成?なんでおんの?」
「なんでじゃないじゃん。京平から“サラが手ぇ付けらんないからなんとかしろ”って連絡あって、家に電話したら出ないし携帯は通じないし。京平にもう一回連絡したらサラが実家に帰ったんじゃないって言ってるって言うから」
「はぁ…」
今日は仕事で出勤してるはずやのにあたしの背後におって、頭の中はパニック状態。
繋がってた携帯は閉じて強制的に切られ、いつものバッグを持って立ってる高成は心底呆れた顔で盛大な溜息を吐いた。
最近伸びてきた前髪をかき上げて、勢いよくしゃがみこみ、あたしと視線の高さを合わせた。
「いっぱい聞きたいことある」
さっきとは違って、呆れ顔から真剣な表情に変わって、ちょっと怒ってるような気もする高成はドカリとあたしの正面に座り、話をする体制に入った。
妙な威圧感を感じて、それを言いたいのはあたしの方なのよ?とは言えず、「はい」とだけ返事をした。
「まず、これはなんなの」
ものすごい大雑把な聞き方に首を傾げそうになったけど、なんとなくの直感で「実家に帰らせていただきました」と答えた。
「どうして実家に帰ってきたの」
さっきの答えは合ってるらしく、次はその理由を聞いてきた高成に“自分の胸に聞いてみたら?”と言おうかどうか悩んだ。
言うたところでムダに終わるのはわかってるから言わんけど。
と言って、「高成こそ女の子はどうしたん?」なんて事は聞けんし、自ら墓穴掘るようなことはしたくない。
「家事育児にちょっと疲れたから休息のために帰ってきただけ。今、千秋がお母さんと出掛けてるから帰ってきたら、そっちに帰るつもりでおったよ」
本音は言わずに、冷静になったときに思った事を言うたあたしはやっぱり嘘が吐けんらしく、目を見て言うたもののすぐに逸らしてしまって、誤魔化す方法も見つからず、笑うだけ笑っておいた。
今、高成がどんな表情をしてるんかわからんけど、これで納得してくれればいい。
「ちょっと来い」
―――な~んて高成相手にそう簡単にいくはずもなく、無理矢理立ち上がらされたあたしは腕を引っ張られながら二階へ連れていかれる。
どこ行くの?なんて聞いてもよかったんやけど、聞いたところで高成が止まるはずがないから抵抗も文句も言うのをやめて、されるがままになってた。
予想通り、あたしの部屋に連れて行き、ものすごい勢いでドアを閉めた。
誰もいてない家やから多少うるさくても大丈夫やけど、さすがのあたしも飛び上がるほど驚いた。
唖然としたままのあたしをそのままベッドの上に放り投げ、覆いかぶさった高成は今までに見たことないくらい無表情やった。
「ちょっと」
「理由は?」
「は?」
「理由。こっちに帰ってきた理由」
「理由ならさっき言うたやん」
「納得できない。俺に黙って来た理由は?」
押し倒されてるっていう状況が正確な表現なんやけど、色気の欠片もなく目の前にある高成の顔はやっぱり無表情。
確かに休息のために実家まで帰ってくるのはキツイ言い訳やったんかもしれん。
でもそれ以外の理由なんか思いつかんかったし、そもそもほんまの理由がそうでないだけに上手い言い方が見つからん。
説明しようのないあたしの気持ちとこの現状を打破する方法がわからんくて黙ったままでいてると、高成の手があたしの服をめくり、お腹から下腹部にむけて撫で始めた。
「ちょっと、なにしてんのよ?!」
「なにって、涼が言わないならお義母さんと千秋が帰ってくるまですることないし、いいんじゃない?」
「はぁ?!なに言うてんのよ!」
さすがのあたしも誰もいてない家といえども、度が過ぎると思ったし、なによりも無表情の高成に抱かれるのは嫌で愛撫を続ける高成の手を必死で止めた。
「なにしてんの」
「抵抗してんの!」
「なんで抵抗すんの」
「なんでって、」
「嫌ってこと?」
「当たり前でしょうが!!」
最後の一言で高成の手が止まる。