夢物語【完】

「いつまで無視してんの?」

あたしの声じゃない声が聞こえて、顔を上げると目の前は駅。でも、視界に入るところにはあたし以外誰もおらんし、人の影も見つからん。

「空耳?」
「なわけないだろ。ボケてんの?」

すかさずツっこまれた。背後と顔の左側に人の気配がある。
知ってる香水の匂い。

「次はフリーズ?」

知ってる声。半信半疑のモヤモヤでいっぱいで、まばたきすら出来ん。

「なんで、おんの?」

声が少し震えてる。

「ん?さっき通るの見たから」
「そう、なんや」
「なんだよ。少しくらい驚けよ」

背後から気配が消えた。
めちゃくちゃ驚いてるっちゅーの。驚いてるから動けてないねやん。それくらいわかるやろ?

「あ、まばたきはしてる。おい、口開いてるぞ?」

見えた顔は笑っていた。
変わってない。

ホンモノだ。

「久しぶり。って、さっき会ったか」

少し雰囲気が落ち着いていて、笑った顔も少し大人っぽくなった。ヤバイ、泣きそう。

「え?!なんで?!」

待って、待って!!と来ている服の袖であたしの目元を拭う。
あたし、泣いてんやん。アホみたい。

「次は笑うの?!なんなの?なんで俺こんな焦ってんの?!」

今度は笑っているらしい。あたしの涙を拭いながら、テンパってるのがおかしかった。
あたしはアホや。今更やけど。そして、高成も相当なアホや。

「また公園か。しかも、電灯ないし」

危なくない?なんて言いながら、駅の隣にある神社の隣の公園に移動して、買ってきてくれたジュースをもらう。

「なんであんなとこおったん?」
「あの店すごい有名なんだよ。昔のレコードとか置いてて、品揃え最高だし。雑誌に載ってて、絶対寄ろうって決めてたの」
「そうなんや!知らんかった。今度行ってみよ」
「昼間にしなよ。こんな時間に危なすぎる」

少し怒ったような口調。明日圭ちゃんに話しても、たぶん同じように怒られる。いや、圭ちゃんの方がもっと怖い。

横目で見た高成は白のデザインTシャツに赤のダウンベストを着て、某ブランドのジーンズにキャップ帽という、かなりラフな格好。

「バレなかったわけ?」

顔が、表情が、まだ見れない。

「なにが?」

声が、左耳に響く。自分のカラダが少し右に傾いていているから左の項あたりに声が何度も反響してゾクッとする。

「だ、だから…」

声が次第に震える。

「お前、なんでこっち見ないの?」

しびれを切らしたかのように少し怒り気味口調だった。
気付かれた。そりゃあ、気付くか。会ってから1時間以上経過してるのに進んだ会話もないし、なにより沈黙が多すぎる。
4年前と比べたら、天と地くらい違う。使い方あってるかわかんないけど。
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