夢物語【完】
「じゃあ、どうしてそう思ったの」
真横に座ってるだけで顔は見てないのに声だけでこんなに圧迫感や威圧感を異様に感じるのは一体どういうことなんやろう。
あたしが思うに原因は高成にあるわけであたしにはないはず。
それやのにあたしが問い詰められてて高成の態度がでかいっていうのは考えもんやと思う。
高成に勝てるなんてハナから思ってないけど、さすがに理不尽すぎるんちゃうか?って思う。
「なに?思ってることは口に出してもらわないとわかんない」
今度はこちらを向いて話した高成はあたしの顎を掴んで無理矢理向かい合わせた。
「え…?」
目を閉じ損ねたあたしが見た高成はさっきとは一変して優しく微笑んだ。
「不倫したと思った?」
そう言ってあたしの頬を撫でるから変な緊張から解けた気がして、肩の力が一気に抜けた。
自然と眉も下がる。
「今日、俺が帰ったとき起きてただろ?それと朝も」
「……へ?!」
気付いてたん?!という何とも言えん衝撃を受けたあたしは口を開けっぱなしにすることしか出来んくて、そのあたしを見てくすくす笑う高成にイラッとした。
今の今までの態度はなんなん?演技?はぁ?みたいな感情まで出てくる。
それが態度に出てたんか「そんな怒るなよ」と笑われて更にイラッとした。
「今朝のアイツらは同じ事務所のガールズバンドで事務所にいる奴らだけで新年会兼ねて朝まで飲んでたんだ。タクシーで帰ってきたから店から一番近い俺が先に降りた」
優しい高成の声に視界が滲んでくるのがわかる。
あたしの手を握って、次はあたしの言葉を待ってる高成は手を握ってない方の手で頬を撫で続けてる。その仕草に促されて、あたしの口は自然と開いてく。
「でもいつもは千秋に挨拶しにくるのに、」
「酒とタバコの臭い俺は嫌だろ」
「寝てるのに?」
「涼は起きてたじゃん」
「あたしのためなら先に挨拶しにくるべきじゃない…?」
半泣き…てか、泣いてるあたしの涙を拭いながら、そして笑いながら「ごめん」って言う。
謝って済むなら警察いらんねんけど?!って思うけど、やっぱり口には出せんくて目で訴える。
ま、それも高成には無意味やけど。
でも、・・・よかった。
高成が不倫してなくてよかった。
今度こそ本気で気が抜けた。
全身をソファーに預けたあたしに「どうした?」って問いかけてくる高成はあたしの心情を全く理解してない。
あたしがどんなけ不安になったか、どんなに割り切ろうとしたか全くわかってない。
「連絡しなくて不安だったのは悪かったと思うけど、俺の気持ちを信用してないのは考えもんだな」
「別に信用してないわけじゃ、」
「でも疑って実家に帰った」
それを言われては反論できんくて渋々口を閉ざす。
あたしも陽夏ちゃん同様、早とちりして話も聞かずに勝手に疑って、しかも役不足って割り切ろうとした。
それはあたしが悪いと思う。
付き合ってるときと変わらず自分に自信が持てずにいてる。
高成の隣にいてるのがあたしでいいんか、高成はほんまにあたしでよかったんか、あたしと過ごす毎日はちゃんと幸せで満たされてるんか、幸せを感じさせてあげることができてるんか、もう言い出したらキリがないくらい不安なことはいっぱいある。
そんな中で今朝みたいなことがあれば、そういう日々重なってく不安が一気に溢れてこういう事態を引き起こすんやと思う。
高成の彼女になれて、結婚して、子供が産まれても埋まりそうにないこの言い表すことの出来ない気持ち。
愛されてるのは十分すぎるくらい感じるのに、高成のことを想うと胸が痛くなるのはあの頃から変わらん。
「何をどう思ったのかはわからないけど、俺は涼以外いらない。むしろ涼がよそ見しないか心配で気が気じゃないし」
真剣な顔で言うから「よそ見せぇへんし」って言うと「ほんとに?」と、これも真剣な顔で疑うから本気で両頬をつねってやった。