夢物語【完】
二世の恋
「杏、お前バカ?」
「バカじゃないもん!忘れてるだけだもん!!」
「それをバカって言うんだよ」
谷口 杏(あんず)、17歳。
青春真っ盛りな高校3年生。
そして、あたしをバカ呼ばわりした彼は青山 千秋、15歳。
中学3年生の秀才少年――で、あたしの好きな人。
「バカって言わないで!」
「まず俺に勉強教えてもらってる時点でバカだから」
ごもっともなことを言われて落ち込む。
あたしだって中3の千秋に高3の冬休みの宿題を教えてもらうことになるなんて思いもしなかった。
今日は定期的に開かれるあたしの家と千秋の家と涼介くんのお食事会の日で千秋に会えることが嬉しくてワクワクしてた。
服も可愛いワンピ着てメイクも完璧にした。
ただ一つ間違ったのはリビングのテーブルに宿題を広げてたこと。
今日はうちで開催することになっててママは部屋掃除やら準備やらで忙しそうにしてた。
ただでさえそそっかしくてドジなのに慌ててするもんだから逆に汚くしちゃって最終的にはパパも一緒に準備してた。
パパもママもずーっとラブラブであたし達の目があっても常にイチャイチャしてる。
でもそれがあたしの目標になってて未来の旦那様とは両親みたいにいつまでもイチャイチャできる夫婦になりたいと思ってる。
その相手が問題で、小さい頃から一緒にいる千秋がずーっと好きなあたし。
小さい頃は可愛かったのに中学生に入る前くらいから急にクールになりだしてあたしをバカにするようになった。
あたし達は世間でいう二世。
パパが有名なギタリストで千秋のパパであるナリくん率いるバンドのメンバー。
作詞も作曲も手掛けちゃう自慢のパパ。
千秋も同じで有名バンドのヴォーカリストをパパに持つ二世。
互いに有名幼稚園と有名中学校を経て育ってきたけど、高校だけは違う。
あたしは私立だけど平凡な学校、千秋は頭がいいから有名な私立高校へ入学予定。
そんな年齢差も知能差もあるあたし達だけど、あたしには揺るがない想いがある。
あたしは千秋が生まれた時からずーっと好き。
千秋と3歳離れていてもこの想いが変わることはない。
今は知能面でバカにされてるけど、そんなこと関係ないくらい千秋が好き。
隣で千秋が問題を解きやすいように解説してくれる声も半分にずっと顔を眺めてる。
涼ちゃんとナリくんのいいとこしかとってない綺麗な顔。
キリッとした顔立ちだけど目元は涼ちゃんに似て優しい。
「杏、聞いてんの?」
こんなキツイ言葉も千秋の顔でキュンとしちゃうあたしは千秋の言葉通りバカなんだと思う。
「ちーくんに教えてもらうなんて杏ってば本当にバカなんですかね?」
「いや、バカじゃないやろ。うちも千秋がこんな秀才になるとは予想外やったし」
背後でママ達が交わす言葉に内心頷きながらも千秋の睨みにキュンキュンする。
涼ちゃんは否定してくれたけど、やっぱりあたしはバカなのかもしれない。
「千秋、その言い方はダメだろ。杏にはもっと優しく教えてやれよ」
「でも杏バカなんだもん。俺の説明聞かないし」
「杏がバカなのはわかったから俺の前で言うな」
ナリくんと千秋の親子の掛け合いにパパがフォローにならないフォローをしてくれる。
パパは「陽夏の子だからな…」とぼやいてたけど、あたしはバカなつもりはない。
ママの子だから積極的なところが似たし千秋への一途な気持ちはママから貰った最高の贈り物だと思ってる。