夢物語【完】
隣の千秋はあたしに宿題を教えるのに疲れたのかナリくんと親子の会話をしてる。
音楽の話であたしにはついていけないけど楽しそうに笑う。
千秋は秀才なだけじゃなくギターもドラムも出来る。
涼介くんから伝授されたギターと千秋の伯父さんになる悟くんに伝授してもらったドラムがある。
歌は知らないけどナリくんの子供だからきっと上手いに決まってる。
千秋はギターを弾くところもドラムを叩くところも見せてくれたことないけど絶対カッコイイに決まってる。
むしろ見たら今以上に好きになりすぎて一生離れられなくなるかもしんない。
つい最近まで3歳年下の可愛い男の子だって思ってたのに急に男になってドキドキさせられる。
ママはあたしの恋を応援してくれてるし、涼ちゃんも複雑ながら成り行きを見守るって言ってくれてる。
「ねぇ千秋、買い物付いてきて」
宿題に飽きたし全然構ってくれないからシャーペンをテキストに挟んで直した。
「終わったの?」と怪訝そうに聞いてきたから「今日までのは終わった」と嘘はつかないように返事した。
じっと見つめられてドキドキする。
千秋は事の真相を見極めてるだけだけど、あたしが早くと急かすと溜息吐きながら立ち上がってくれる。
「今から行くの?」
ママが心配そうに聞いてくる。
「近くのコンビニだから」
「でも…」
「千秋もいるし大丈夫やって。な、千秋」
ママの心配を涼ちゃんがフォローしてくれて、「ちーくんがいるなら大丈夫か」と納得してくれたママを見てから、涼ちゃんに満面の笑顔を返してダルそうに立ち上がる千秋を連れ出した。
「ほんとにコンビニ?」
「コンビニ!欲しいものあったら買ってあげるよ」
「欲しいもんあったらな」
並んで歩けるだけでテンションあがっちゃう。
横目で千秋を盗み見ると寒そうに肩をあげてる。
千秋はいつの間にかあたしの身長を追い越して中3にして175センチ。
「もう止まるな」って言ってたけど、ナリくんと涼ちゃんの身長を考えてもどこから与えられた遺伝子なのか不思議なくらい背が伸びた。
細くて筋肉質なスタイル。
夜はメガネ男子になる秀才くん。
そんな千秋の隣で並ぶのは頭も悪いしドジなあたし。
スタイルは悪くないと思うけど自信があるわけじゃない。
千秋には涼ちゃんを含め、世津さんや真さんみたいなスレンダー美女が周りにいっぱいいる。
ママ世代だけど、それでも綺麗だから目が肥えちゃってきっとあたしなんて凡人にしか見えない。
コンビニに行く途中だってお姉さんは千秋を見るし、ここのコンビニのお姉さんは絶対千秋を狙ってるに違いない。
「なに買うん?」
「ん~と、アイシャドーとマスカラ」
「ふ~ん」
後ろから付いてきてコスメを見てる久々に出た関西弁の千秋。
いつも不思議そうに眺めて、どうやって使うのかを聞いたりしてる。
「涼ちゃんに聞いたりしないの?」
「する。でも説明下手だからナズ姉に聞いたりしてる。あと世津とか」
色々あんのな~とか言いながら雑誌のコーナーへ向かう千秋の背中を見てた。