夢物語【完】
幼なじみ
ぽかぽか陽気、超天気がいい。
「ねぇ、なーくん」
教室で授業。
しかもあたしの大嫌いな数学。
外はこんなに晴れてるのに勉強だなんて勿体無い。
つまんないから前の席に座る幼なじみのなーくんに声を掛けると、んー?と名前通りふんわりした返事が聞こえる。
「なにしてるかな?」
「授業受けてるよ」
「わかってるよ!それになーくんに聞いたんじゃなくて、なにしてるかな?って聞いたの!」
背中をグーで殴るあたしに冷たくも「そんなの僕が知るわけないじゃん」と言い放った。
「わかってるもん!でもなーくんも一緒に考えてくれたっていいじゃん!」
「なんで杏(あんず)の妄想に一緒に付き合わなきゃいけないの。普通に考えて千秋だって学校なんだから授業中でしょ」
こんなことで毎回背中殴るのやめてよ、とまた冷たく言い放つなーくん。
あたしの真剣な気持ちを全く理解してくれない。
なっちゃんのDNAを綺麗に受け継いでる。
でもあたしのこんな発言を冷たくも聞いてくれるのはなーくんだけ。
当の千秋に言ったって馬鹿にされてスルーされて放置されるのがオチ。
「なーくんだけだもん。ちゃんと聞いてくれるの。だからなーくんにしか言えないんだもん」
鬱陶しいのはわかってる。
聞きたくないのもわかる。
でも千秋に伝わらない以上、この気持ちの吐き出し所がないと爆発して苦しくなってしまう。
だからいつもなーくんに言ってしまう。
今みたいにどうでもいいことも。
なーくんは溜息吐きながらでも最後まで聞いてくれるし絶対馬鹿にしたりしない。
こんな素直なままのあたしを笑わない。
「片思い歴何年になるんだっけ?」
なーくんが珍しく普通に返事してくれる。
「もう…10年とか?わかんない。千秋が産まれた時から大好きだから」
それもすごいよね、と半ば呆れながらだけど笑わなかった。
「僕が知る限りではまだもうちょっとかかるんじゃない?気長にいけば?」
俯くあたしの頭を撫でながら応援してくれる。
顔を上げたらなーくんは前を向いて授業を聞いていたけど、そんなさりげない一言だけで十分勇気づけられる。
なーくんだけはあたしを応援してくれるし慰めてくれる。
千秋がまだ振り向かなくても、もう少し頑張る!って気にさせてくれる。
その一言だけであたしを笑顔にしてくれる。
大切な大切な幼なじみで大親友。
なーくんの背中に感謝を込めて【なーくんだいすき】と指で書いた。
なんてないフリしてるけど、きっとなーくんはわかってくれる。
「感謝の気持ち!」と言うと「そろそろ勉強しないと千秋に嫌われるよ」と本気口調で言われた。
…END…