夢物語【完】
「なんか本当、不思議だよね。こういう家に生まれてないとないんだよ、こういうの」
「だよなー。ほんと不思議すぎる」
「あ、ママからメールきた」
櫻が携帯を取り出し、せっちゃんからのメールを読んだ。
「“紗生と慧ちゃん連れて家においで”だって」
「ママいるのかな?」
「俺も行っていいの?」
「んーとね、まだあった。“涼が来てるから慧ちゃんは帰る時に送ってもらえるから”って書いてる」
「じゃあ行こう!」
「おいでおいでー」
「世津さんに会うの、すげえ久しぶりなんだけど…」
「慧ちゃん、あんまり櫻んち行かないもんね。祐介パパいるの?」
「今日はいないよ。でももうすぐ帰ってくると思う」
「そんなに早いの?」
いつもの分かれ道を櫻の家の方向に曲がって3人で携帯を見ながら歩いていると「コケるぞ」と車の音と一緒に聞こえた。
「パパ!」
「祐介パパ」
「こんにちは」
三人三様の返事をして、祐介パパの車があたし達の横で停まるのを見てた。
「うち来るんだろ?乗ってけ」
やった!と次々後部座席に乗り込み、ゆっくりと発進させる。
「涼もいるのか?」
「そうみたい。だからみんなおいでって言ってくれたの」
「にぎやかなんだろうな」
俺、仕事明けなんだけどなーと呟きながら運転する祐介パパ。
いつもタイミング悪く祐介パパは仕事から帰ってくる。
せっちゃんとママがそれを見越してなのか、たまたま偶然なのかわからないけど、たびたびこうして拾われて櫻の家に行くことがある。
慧ちゃんのママとせっちゃんのママはあまり面識がなく、ママが共通の友達であたし達3人が同じ年齢だったから知り合えたらしい。
だから、慧ちゃんは祐介パパと馴染みがなくですごく緊張してるのが隣から伝わってくる。
「慧斗、京平はちゃんと曲作ってんのか?」
「はい、部屋に籠って毎晩何かしてます」
「ナリとは大違いだな」
「祐介パパひどいー。うちのパパだってちゃんとやってるし!場所がママ達が寝る場所だからあたしはわからないだけだし!」
「寝室でナニやってんだかねー」
祐介パパの苦手なところはこうしてパパを信用してないところ。
あたしがパパをかばうとニヤニヤする。
本当、いつまで経っても苦手。
「「おかえりー」」
櫻の家に着き、最初に降りた櫻を先頭に家にお邪魔する。
リビングにはせっちゃんとママがいて、笑顔で迎えてくれる。
「ママ、ただいま!」
「おかえり。慧ちゃん連れてきてくれたんやね」
「うん!緊張してた」
「えー、祐介に何か言われたかな?」
「いや、会う回数少ないだけやろ?大丈夫やで」
標準語のせっちゃんに関西弁のママ。
なんだか違う国の人が話してるみたいだけど、そんなやりとりを傍で聞いてるのがあたしは好き。
「3人とも手洗ってきたらジュース入れてあげる」
その言葉に勢いよく洗面所に向かう。
あとから入ってきた祐介パパがせっちゃんに話しかけてるのを洗面所から見てた。
リビングの斜め向かいにある完全防音の部屋。
それが祐介パパの部屋で仮眠場所。
いつも朝方まで仕事してきて昼に仮眠をとって、夜に打ち合わせとかで、また仕事に行ってしまうらしい。
櫻はそんな祐介パパを心配しているけど、せっちゃんが平気な顔して見送るから安心できるらしい。
櫻は祐介パパと一緒に仮眠室に入っていった。
久しぶりに会うから一緒にいたいんだと思う。
祐介パパはうちのパパと違って本当に忙しい。
だから家に帰ってきてもすぐに仕事に行っちゃうらしい。