夢物語【完】
「何も言わないの?」
「えっと?」
「俺、迷惑かけてる?」
心の中でそう思うのにカラダが動かない。ただ首を横に振るだけでいいのに、それすらできないくらい緊張してる。
「そうか。なんか、期待してたの俺だけみたいだな」
寂しそうな声と共に靴とこすれ合う砂の音が切ない。
「なんなの、コレ?」
顔を見ることが出来んから、Tシャツの裾を軽く掴んだ。手が震えてるのが自分でもわかる。
子供染みたあたしの行動にきっと呆れる。そして、腰を上げて帰って行く。
それから先は、もう二度とない。
涙が溢れそうになる。
堪えるのが精一杯だ。
「前もそうだったけど、絶対声出さないよね。しんどくない?」
よかった、帰らんのや。まだ、隣で座ってる。少し安心して、口を少し開けて息を吐く。
疑問系で話しかけてくるなんてズルイよなあって思う。
4年前のこと覚えてくれてるらしい。それだけでも嬉しいのに、あたしが、泣いてたこと気付いてたらしい。
泣いてたつもりなかったけど、あんなけ震えてたらそう見えちゃうか。
もう涙で顔がぐちゃぐちゃで上げれん。けど、声を抑えるために口を閉じっぱなしのあたしは少し苦しくなってきてた。嗚咽にも似た苦しさが私の一定の呼吸を乱してく。
そろそろ本当に隠せん。息ができん。
「なんでそうやって我慢すんの」
裾を掴んでいた手を掴んで肩と垂直になるまで持ち上げられて、あたしのカラダは反転する。
顔は上げれん。見せられへんから俯くと、イスに直径1センチほどのシミがいくつも出来る。
「もう、いいかげんに、うわっ!」
「ふっ・・ひっ、く、う~」
高成が手をひいた瞬間、顔だけは見られたくなくて、首に手を回して抱きついた。
匂いと体温で一気に緊張がほぐれたせいで涙腺が一気に崩壊。
「耳元で声我慢されると、ちょっと」
そう言いながらも思いっきり腕に力が入ってるから苦しいはずやのに何も言わずに黙ってあたしを抱きしめて、頭を優しくなでてくれた。
「素直じゃないね。少しひねくれたんじゃない?」
笑いながらもあやしてくれる。
本当、迷惑きわまりない。
嬉しくて、恥ずかしくて、もうぐちゃぐちゃ。
それでも、「涼、泣いたら止まらないね」って、優しく笑ってくれる。
迷惑をかけていると分かっていても離れたくない体温。
離したくない人。
ずっと忘れられんかった。毎日会いたかった。あの日からずっとずっと我慢してた。LIVEに行くたびに約束を破りたくなった。
毎回、毎回、期待してた。それでも会いたくて、会えんくて。ありえんと思ってたから、気付こうとせんかった。
あの日からずっと思ってた。
あれは“奇跡”なんやって。
“偶然”なんて、ありえん。
この出会いに“偶然”なんて、軽すぎる。
だからもし、この先二度目の奇跡があるのなら“運命”やって思うことにした。
あたしはアホやから、そういう風にしか考えられへん。
だから、これは“運命”に違いない。