夢物語【完】
ある日の出来事〜もしものお話〜
“今から帰る”
30分前に届いたメール。
確認したあとはお風呂を沸かしてご飯の準備して、あとは帰りを待つだけ。
今日の晩ご飯はたこ焼き。
千秋も竹串を持ってまだかまだかとワクワクしてる。
「パパがもうすく帰るって」
「ほんま?!うぅ~っ」
最後の唸ったような声は待ち遠しさが言葉にならんくて出てきた声でパパが帰るってメールくれたときによく発する。
「ただいまぁ」
「おかえりぃぃぃ!!!」
鍵が開く音に気付いた千秋が玄関に走り出し、玄関先では「ただいま、千秋」と嬉しそうな声がした。
「ただいま」
「おかえり。ご飯の準備できてるけど、どうする?先にお風呂はいる?」
「ん~、風呂はいってんか」
「うん」
「ほな先風呂はいるわ」
千秋を呼んで脱衣所に向かう二人の背中を見てから準備にとりかかる。
二人がお風呂からあがったらすぐに始められるように。
千秋が「ごはん~~~!」って言いながら突撃してくる姿を想像しただけでにやける。
案の定、
「ママ、ごはん~~~!!」
髪が濡れたまま肩にタオルをかけてあたしに突撃してくる千秋。
髪の毛拭いてから!と肩のタオルでわしゃわしゃと拭いてあげる。
きゃーって言いながらじゃれてると「にぎやかやな」とパパも戻ってきた。
「みて、ママ!パパ、さっきのやって!」
千秋がパパのスウェットを引っ張りながらねだるとパパは「またすんの?」と肩にかかったタオルを取って、そのタオルを千秋の頭の上に乗せた。
あたしの目の前に立ってる千秋の顔は待ち遠しくてウズウズしてる。
一体なにが始まるんかとあたしは首を傾げる。
「いくで?」
「うん!」
「おりゃ~!!」
パパが頭に乗せたタオルでぐっしゃぐしゃに髪を拭いていく。
それはもう四方八方に動くパパの手で千秋の髪がみるみるうちにタオルドライされていく。
これだけ?と思ってたら「これからや!」とパパが言うて千秋の「パパ!」を合図に「キャー!!」と言いながら大爆笑する。
つまり、パパは千秋の髪を拭きながら頭も一緒に軽く振ってる。
体が小さくて軽い千秋はその反動で全身振られてよたついてる。
危ないと思いつつもウケる千秋にパパも止まらん。
「どうや!」
「キャー!」
「参ったか?!」
「キャー!」
「もうええか?!」
「イヤ!」
「嫌で言うたな?」
「イヤ!」
「嫌て言うた奴にはこうじゃー!!」
今度は脇腹をこしょこしょし始めるパパに千秋の体は逃げながらも大爆笑を続ける。
足をバタつかせながら逃げようとするも逃げきれんくて体を前のめりにしたところで倒れそうになったのをパパが支えた。
「はい、危ないから終わり。ほら、飯食うぞ」
「イヤー!」
「嫌ちゃう。腹減ったし。千秋は腹減ってないんか?」
「へってる!」
「ほな食べようや。千秋が好きなたこ焼きやで?」
パパの言葉に「たこやきー!」と素直に椅子に座りパパと同じように竹串を持った。
たこ焼きをするときは千秋がパパの真似してひっくり返そうとするから竹串でくるくるすることにしてる。
パパに手伝ってもらいながらも綺麗に回せると最高の笑顔で喜ぶ千秋が可愛い。
「千秋、まだ回すん早いで。先にタコいれな」
「タコ!ネギは?」
「ネギもや。ほら入れてみ?火傷するから手は気ぃ付けや」
いつもはあたしの隣に座ってる千秋はたこ焼きの時だけはパパの隣に座って一緒に楽しんでる。
あたしの存在は完全に無視。
でもこういう空間が一番幸せに感じる。
「ママ、どーぞ」
一番最初に焼けたのをあたしの皿に入れてくれて自分よりも先に食べるように言う千秋。
あたしが口に入れて感想を言うまではじっと見つめられる。
「めっちゃ美味しい!千秋が焼いてくれたからむ~っちゃ美味しいわ」
「ほんま?!やったぁ~!!」
パパの顔見てひとしきり喜んだあとは自分の皿に盛られたたこ焼きを口に入れて満面の笑顔で食べ始める。
その顔を写真に収めようと携帯を出したら「撮りすぎやねん」と言われたからしぶしぶ諦めた。
標準語が飛び交う日常生活の中で噂によると関西弁と標準語をうまく使い分けてるらしい千秋。
家以外では標準語を使ってて家に友達を呼んだ時はあたしの通訳にもなってるらしい。
我が子ながら使い分けができてて関心する。
パパに一度だけ「標準語で会話した方がええんかな?」って言うてみたとき、「俺らどっちも標準語喋られへんのにどうやって喋んねん」って言われて今に至るけど、使い分けできるような出来た子供で誇らしく思うけど寂しい気もする。
「ちゃうちゃう。ここを先にこうするねん。やってみ?」
「こう?」
「そうや。ほんで底をちょっとだけ触って、こうひっくり返すんや」
「こ、…こう?」
「そうや!出来てるやん。ほなこれから千秋に任せよか」
「やったー!!がんばる!」
たこ焼きの回し方を伝授されてるのを見てると千秋も関西風に育っていくんやろう。
多分、いや絶対パパと同じように面倒見がよくて優しくて気が利く面白い兄ちゃんになるに違いない。
千秋が大きくなったとき、一体どんな彼女を連れてくんのか今から楽しみで、想像ばっかり膨らんだ。