夢物語【完】
「やっと明日やん!!楽しみやな!」
相変わらず仲の良いあたし達は仕事帰りに行きつけの居酒屋に寄って晩ご飯を食べてる。
そう、高成が来るのは明日。
緊張で眠れそうにないから、デートの予定が入ってた圭ちゃんを無理矢理付き合わせて飲みに来た。
無理矢理て言うても、事情を話したら、あっさり予定を変更したのは圭ちゃん自身やけど。
「なんか浮かへん顔して、嬉しないの?」
圭ちゃんは生中を手に持ったまま首を傾げた。
嬉しいよ、かなり嬉しい。
でも不安っていうか、緊張っていうか、なんていうか。
とにかく前日にもかかわらず、心臓バクバクして、どうしようもない。
嬉しい反面、不安。その不安も他の人に比べたら幸せなもんなんやろうけど。
「そんな顔してらんと!半年ぶりに会うんやから笑顔でいなさいよ。高成くんから来てくれるんやろ?」
「そうやけど。なんてゆうか、久しぶりすぎるのと実感がないのと、いろんな意味での不安と、その他諸々でよぉわからん」
「まぁねー。相手は人気バンドのボーカル。その彼女が涼なんやもんなぁ・・・バレたらファンに刺されたりして?!」
酒の勢いもええとこ、そんなありえそうな話してほしくない。
「とにかく、明日は嫌でもやってくんのよ。嫌じゃないやろうけど。緊張してるヒマあんなら、再会したときにどうやって抱きつこうかとか考えたら?」
サラッと大胆なこと言うてるけど、これでも圭ちゃんは去年まで遠距離恋愛をしていて再会したときは謙吾くんが後ろに倒れるくらい思いっきり抱きついた経験者。
そのあと謙吾くんに怒られたらしいけど、謙吾くんも嬉しかったらしく、怒ったあとは笑って頭なでてくれたって言うてた。
だからって、あたしも同じことするつもりないけど、それくらい寂しくて、ずっと会いたかったっていう愛情表現?はしたいなって思う。
思ってるけど、毎日電話してる相手は人気バンドのボーカリストのTAKA。
でも、あたしの彼氏でもあって。
「圭ちゃんでもわからん葛藤があたしにはあるんだよ」
運転手のあたしは飲んでも酔えないウーロン茶を飲み干した。
ほんまは緊張なんかしてない。緊張なんか毎日嫌ってゆうほどしてる。
ただ、不安なだけ。
夢に向かって歌い続けてる高成は、あたしが知らんところで日ごと格好良くなっていく。ただ普通に生きてるあたしの何倍も早く歩く。
そんな高成の隣にあたしが並んで歩いてええんか不安で、ふさわしくないと言われんのが怖くて、なにより自信がない。
そんなこと今更やけど、ずっと前からわかってたことやけど、いざ現実を前にしたら、やっぱり腰がひけて、逃げたくなる。
もっと自信持ちな!って圭ちゃんは言うてくれたけど、あたしはどこにでもおるような普通の顔やし、可愛くないし、スタイルもよくないし、何の取り柄もない普通の女やから、自信なんか持てん。圭ちゃんみたいに可愛ければ、もっと自分に自信もてたかもしれんけど。
なんやかんや言うたって明日は来るし、この容姿も今じゃ変えようがない。
家に帰っても、あたしのため息は止まることなかった。