夢物語【完】
それから僕らは
「じゃあ、後ろで見てるね」
「あぁ、いってくる」
「私も後ろで見てるから」
「・・・」
「お前らライブ前にいちゃこらすんな!」
あれから3年。
あたし達は相変わらずな毎日を送ってる。
「涼ちゃん、今日王子は置いてきたの?」
「うん、お義母さんが預かってくれるって言うてくれたから甘えた」
関係者専用の通用口を通ってフロアに移動する。
これももう慣れたことで、関係者の方も仲良くさせていただいて、年に数回メンバーと関係者の方でパーティーをするくらいの仲になってる。
“王子”というのはもちろん、あたしと高成の子供のこと。
「陽夏ちゃんもライブ来て大丈夫?」
「はい!安定期に入ったんで激しく動かなければ余裕だよ」
さすが、子供も二人目となると余裕が出るらしい。
あれから一年も経たん間に京平と陽夏ちゃんとの間に子供が誕生。
その後に、あたしは仕事を辞めて、高成と結婚。
地元を離れるのは寂しいけど、母さんは激しく喜んでくれたし、父さんも最初はなんだかんだ言うてたけど、テレビで映った高成を画面越しに紹介して、実際会ってもう一度紹介したときにはアッサリと承諾。
なんら呆気ない結婚やった。
高成のご両親も大阪から出てくるあたしを心配してくれたし、高成の職業のことも先の見えん仕事やからってすごい気を遣ってくれて、今は世間でよく言われる嫁姑戦争もなく平和に過ごしてる。
悟さんと高成のお姉さんの薺さんの子供で凪(なぎ)くんは、もう3歳で薺ママに似てクールに成長して悟パパが困っている場面をよく見る。
京平と陽夏ちゃんの第一子である杏(あんず)ちゃんは2歳になるけど、顔は京平パパ似で性格はモロ陽夏ちゃん似で面白いことになってる。
京平が毎日頭を抱えながらも幸せそうに笑ってる。
涼介は相変わらず一匹狼状態。
孤立しているという意味じゃなくて、いまだに彼女がおらん。
だから、ちょくちょく家に遊びに来ては泊まって帰る日々。
高成は怒ってたけど、周りが次々に結婚していくとそうなる気持ちもわかる。
それにあたしがおることで少し気が緩むんやろう。
高成が打ち合わせで遠出をするときは自分から涼介呼んで一緒に留守番したりするし、その時は大抵京平も一緒に行くから陽夏ちゃんも泊まりにきたりして、3日間くらいは学生みたいにワイワイ過ごしてる。
「陽夏ちゃん、体調悪くなったら、すぐ言うんやで?」
「うん、ありがとう!」
飛びつくようにして抱きつかれたあたしは体勢を少し崩した。
陽夏ちゃんのこういう所は全然変らへん。
いつでも、いつまでも可愛くて子持ちのママやとは思われへんくらい。
一般客の人がつい見てしまうほどの目立ちよう。
元々可愛かった陽夏ちゃんがさらに目立つようになって気が気じゃないらしい京平は、こういう時だけ「ちゃんと見張れ」とあたしに命令してくる。
都合が悪いときだけ頼ってくる、相変わらず腹立つ男のまま。
「あ、ほら!ライト落ちたよ」
さすがに前でもみくちゃにされるのは妊婦にはよくないから、って事で一番最後列の壁によっかかって見ている。
本当はもうホールで出来るくらい人気はあるのに近距離で感じる熱気や歓声は手放したくないらしく、いまだに年に数回はライブハウスで続けてる高成たち。
ファンクラブも出来て、会員数もかなり増えた。
店長が言うには“今一番キテるアーティスト”らしい。
あ、ショップ店長の中塚さんと世津も結婚して、まだ子供はいないけど二人の時間を満喫しているらしい。
世津もたまに家に遊びに来て、店長の話をよくしてくれる。