夢物語【完】
《で、唯一結婚してない涼介は今度ソロアルバムを出します!で、他のアーティストと一緒にライブ回ったりもする予定なんで見に行ってください!もちろん俺たちも行くんで!!》
すると空気は一変して涼介への声援に変わった。
あたしと陽夏ちゃんはやっと顔を見合わせて笑いあった。
「こんなこと、わざわざサプライズにする?」
「しないよ!面倒だったんじゃない?」
「ありえるね!」
互いに笑いあってると、高成がまた話し出す。
《今日、俺と京平の奥さんがこの会場に来てくれてるんだけど、何も言わずに呼んじゃったから怒ってるかと思ったけど、笑ってて安心しました》
そう言うとフロアからは爆笑が起こった。
高成は最後に勝手なことをしたことと、一年後には必ず帰ってくることと、新しいアルバムを発売させることを約束して次の曲に入った。
まさか育休宣言すると思わんかったあたしはただ笑うことしか出来んくて、気持ちよさそうに歌う高成をずっと見てた。
歌うことが一番好きな高成が子供のために、あたしのために休みを取るなんて想像できんかった。
それを承諾した京平が一番面白いけど。
最後まで見るつもりやったライヴは陽夏ちゃんの気分が悪くなったから途中で切り上げた。
フロアを出るとき、高成と京平と目が合ったから“大丈夫”と伝えて外に出た。
「陽夏ちゃんいける?」
「大丈夫です。ちょっと熱気にやられました」
水を買って渡すと一気に半分くらい飲み干して、すぐ回復したらしい。
それでも大事を取って、戻ることはやめた。
楽屋に通してもらうと眠っていたはずの杏ちゃんが起きてお菓子を食べていた。
「杏、起きてたの?傍にいなくてゴメンね」
「ううん。パパ見てきた?」
「うん。杏も見に行く?」
「イヤ。うるさい」
三歳児にしては理解力のある子供で、普通目を覚ましたら泣くだろうに、杏ちゃんは泣かずに一人でお菓子を食べてるっていう高成がよく言う天才児だ。
ライブ中のパパはパパじゃないって言うらしく、生で一度も見たことがないらしい。
DVDで見せたときも「嫌。」の一言でテレビの電源を切られたとか言うてた。
「そうだ、杏。パパがね、これから一年間毎日お家にいるって、さっき言ってたよ」
「ほんと?!」
さっきの「イヤ。」の表情から一変して、目をキラキラ輝かせる杏ちゃんはかなり京平のことが好きなんやろう。
「うん」
「あしたも?!」
「明日はいるよ」
「あしたのつぎも?!」
「その日はお仕事だからいないよ」
「どっち…?」
そりゃそうなるに決まってる。
陽夏ちゃんは杏ちゃんを抱っこして、話しかけた。
「まだお仕事が残ってるから、すぐじゃないけど、もう少ししたら杏と毎日一緒にいてくれるよ」
「ほんとに?」
「うん、本当」
「うそじゃない?」
「嘘じゃないよ」
この嬉しさをどう表現すればいいのかわからないらしい杏ちゃんは陽夏ちゃんの胸にぐりぐりと顔を擦り付けて、首に手を回してぎゅーっと抱きついた。
「杏、ママ苦しいよ」
陽夏ちゃんと杏ちゃんを見てると本当に心があったかくなる。
あたしとあの子もこんな風になるのかな?と想像するだけでわくわくする。
「なんやねん、あのMC」
「ちゃんと前もって言っただろ?」
「聞いてたけど、お前らの話ばっかりやないか」
「そう怒るなよ」
「怒るわ!」
涼介と高成の声が聞こえて、杏ちゃんが一番に反応する。
「パパ!」
開けっ放しだったドアからメンバーが入ってくる中で京平めがけて飛んでいく杏ちゃん。
「おっと、パパ汗かいてるから」
しゃがんで待ってたけど、抱きついてくるのは予想してたみたいで抱っこはせずに頭を撫でていた。
「お疲れ。あとアンコールやね」
「うん」
ペットボトル一本丸呑みしちゃうくらいがぶ飲みしてから返事をしてくれる。
服は相変わらず汗でべっとりだ。
「重大発表ってアレ?」
「びっくりした?」
意地悪そうに「こんなサプライズどう?」と笑う。
「びっくりしたけど、泣けるほど嬉しい」
そう言うと、「続きは帰りな」と言ってアンコールに応えるためにステージに戻っていった。