夢物語【完】
その後、家に帰るとお風呂にも入らず眠った。微かに残る高成のにおいと手に残るぬくもりを感じながら眠りについた。
夢に、高成が出てきた。
ライブで汗をかきながら笑顔で唄ってる高成。あたしに気付いて手を振ってくれる高成。
そこで夢は途切れてしまう。目を覚ませばもう外は真っ暗で、今が夜なのか朝なのか、一瞬わからんくなるほど眠ってた。
ご飯を食べて、お風呂に入って、思い立ったように公園へ足が動いた。
朝まで座っていたベンチにもう一度座ってみる。
隣に高成は、いない。もう、においも、ぬくもりも、わからん。
やっぱり夢やったんや、と自分に言い聞かせる。
空を見上げると星がたくさん見えた。
「そういえば、空、見んかったなぁ」
あの時はどんな空やったんやろう。こんな風に星が散らばってたんやろうか。それとも、星一つ無い真っ暗な空やったんやろうか。
ふぅ、と溜め息に似た息をはいて冷えた手をポケットに入れた。
「手、つめた」
自分でも呆れるくらい冷え性。ポケットに手を入れたところであったかくなるわけない。
「なんじゃこれ?紙?」
左ポケットの中に二つ折りにされた小さな紙が一枚入っていた。
「レシート?」
その紙は高成がコンビニでガムとメモ紙とペンを買っているローソンのレシートやった。開いてみるとレシートの裏にはメッセージ。
“次のライブで会おう”
流れるような綺麗な字で書かれていた。容姿や話し方では想像できんくらい綺麗な字で書かれていた。
本当、高成はバカだ。
次も、その次も、その次の次も、あたしは高成のファンとして、ステージの下から見てるに決まってる。そして、高成は自分の目標と夢のためにステージにあがり、歌い続ける。
そこで高成があたしを見つけても、見つけられんくても。
この出会いは奇跡でも必然でも、運命でもない・・・偶然。
ネックレスを落としたのがあたしじゃなければ、高成は違う女の子と過ごしていたかもしれん。そう考えれば“偶然”も侮れんけど。
高成との約束。
約束って言葉は少し違うかも知れんけど、もしかしたらこの先、一生出会わんかもしれん。
何年か後に高成が他の人と結婚してるかもしれん。でも、次のライブで出会うかもしれん。
それはあたしにも高成にもわからん。あたしも何年後かに彼氏ができて、結婚するかもしれん。
簡単な口約束。
幼い頃に“結婚しようね”って約束するようなもの。幼すぎて笑えてきちゃうくらい。
あたし達が出会えたのは偶然。必然でも運命でもなく、あの時ネックレスを落としたのがたまたまあたしで、追いかけてきてくれたのがTAKAやっただけ。
強引やったけど無理矢理させたTAKAとの約束も守られるかどうかなんてわからん。でも、“約束した”ことは紛れもない事実で、それが守られたら、その時あたしは激しく感動して泣くんやろうけど、それもどうなるかなんかわからん。