夢物語【完】
先にリビングに戻った高成は陽夏ちゃんの手伝いをしてくれてたらしく、動いてくれてた。
京平と涼介は相変わらずリビングのテレビの前で座ったままで既にビールが2本ずつ開いてた。
昨日、ケースで買っててよかったと思った瞬間。
あたしと一緒に戻ってきた杏ちゃんは迷わず京平の足の上に座って、同じようにテレビを見てる。
たまにかまってほしくて顔に手を伸ばすと京平が相手をする。
いつもの口の悪い京平の姿は消えて優しいパパだ。
「ねぇ、パパ」
杏ちゃんの問いかけに京平も、傍にいる涼介も杏ちゃんを見る。
あたしと高成は目を合わせて口元が緩むのを必死で抑えてた。
「あんずがママのおっぱいのんでたときに、パパもママのおっぱいのんでた?」
一瞬部屋がシーン、と静まり返る。
でも、堪えきれなくなった高成が噴出すのと同時にあたしも涼介も耐えられなくて、思わず爆笑してしまった。
京平は口を開けたまま、何故こんな質問をされたのかを考えている。
杏ちゃんは答えてくれない京平に何度も聞いてる。
その光景が面白くて笑いを堪えることが出来ない。
陽夏ちゃんは杏ちゃんの質問に動揺しすぎて皿を落とすし、真っ赤になって「杏!やめて!」と怒ってる。
「その動揺、マジでありえないから!!」
「お前ら…」
「ねぇ、パパー?」
「杏!!」
確かにここまで動揺されると本当にあったのかもしれない、と思ってしまう。
あの京平から考えられないけど、人の性癖なんてものは触れてみないとわからないものだから。
そう思っても、こみ上げる笑いはなかなか収まらない。
あのあと、まだ収まらない高成が「パパとママも無いから。杏のミルクをパパが取るわけないだろ?」と言って納得してくれた。
杏ちゃんは納得してくれたけど、あたし達大人はあまりに爆笑したせいで空気が悪くなってしまったのは言うまでもない。
京平は無口になるし、陽夏ちゃんはすぐに忘れて今日のライブの話になるし、なんかごちゃごちゃした空気の中で恒例のご飯会は深夜2時まで続いた。
結局、本当にいつも通りで、何故か涼介と一緒にお風呂に入りたがる杏ちゃんをお風呂にいれて、続いて高成に千秋を入れてもらってから、涼介は電車が無いからうちに泊まって、谷口家は徒歩5分の家に帰っていった。
片付けは明日でいいね、って事で、あたしもお風呂に入って今はベッドの中。
うとうとする高成の寝顔を見ながら話しかけてたところ。
「育休取るなんて聞いてないし」
「サプライズだもん」
「悟さんの時も京平の時も無かったのに」
「今回はタイミングが良かった」
「タイミング?」
「うちは千秋がいるし、サラも薺も妊婦だし。涼介には悪いけど、時期的にはいいんだよ」
「でも、それなら陽夏ちゃんとなっちゃんの子供が生まれてからでも良かったんちゃう?」
「いや、二人がそれがいいって言ったから」
「え?」
「今日はマシだったみたいだけど、二人とも今回はつわりキツイらしくて、どっちも一人目は何もなかったから今回は心配で仕事にならないってずっと言ってたんだ」
「そうかぁ。じゃあ、よかったんやね」
「そういうこと」
ふわぁ、と大きな欠伸をした高成に「お疲れ様」というと、電池が切れたみたいに寝息を立てて寝てしまった。
少しめくれた布団を直して、間に眠る千秋の布団も掛けなおす。
毎晩見てるのに嬉しくなるこの感情。
幸せで満たされる。
「おやすみ」
明日も幸せな一日でありますように、と願いながら、ゆっくりと目を閉じた。
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あとがき
H22.05.13 眞吏
加筆修正 2017.05.09